第35話 ともかく失格だ失格!

 この世界のカートレースは、将来のレーシングドライバーへの登竜門とされていて門戸を広くあけている。レースなので一応ライセンスが必要だが、座学と指定されたコースを回って来さえすれば所要時間関係なくライセンスは発行される。よくある会社のセキュリティ講習みたいなもんで安全に関する問題のない姿勢、態度を回答させたという実績を残すための発行前提の試験のみだ。

 レギュレーションも車体外寸の上限と主に安全面の装備、服装の規定とブロックなどの危険行為の禁止と原動機が60cc以上125cc未満のレシプロエンジンであることくらいで、パワーも速度もハイテクデバイスも規定は無い。


 通常の参加者は非力な原動機で如何に速く走るかということで安全面の規定を満たせる範囲でギリギリまで重さを削ぎ落とす方向に苦心する。一応強度不足にならないようにこれ以上の重量が必要という規定はあるが、およそ現実的でないからあってないような規定である。それ故にハイテクデバイスなど重量を増すものを付けようとする参加者はレギュレーションに書かれてなくても皆無だった。三並レーシングを除いては。


 レギュレーションを満たしているかどうかの車検に三並レーシングの競技車両を三並が担いで持っていく。聖剣素材ばかりで作られてるのでそれぐらい軽い。全身を覆う流線型の外装がついており、カートらしからぬ外見に車検担当者が難色を示す。


「なんですか?これ?」


「カートの競技車両だが?」


「なんで屋根にエアコン、カーステレオまで付いてるんですか」


「重量規定をクリアするためのバラストだが。レギュレーション前文にカートとはボディありまたはボディなしの陸上車両であり地面と常に接地するとあるから問題ないはずだが。」


「ボディつけてきた奴初めて見たわ」


「少数派でしょうけどいるはずですヨ」


「ルールに規定されてる排気系統のガードがどこにもないですが……」


「排気しないからな。吸気をすべて質量欠損させてエネルギーを取り出す。」


この人無茶苦茶だ。


「えっと……じゃあエンジン採寸しますね。」

エンジンを分解する。リード線のような極細のインテークなどは気にならないようで模型か何かのように普通に外してエンジンを解体する。60ccの規定通り、なんの問題もないはずだ。


「何だこの機構は!!」


「俺の発明した三波サイクルエンジンだ。吸入した混合気の重さを光速に加速させるだけのエネルギーを漏らすところなく軸回転に変換するんですヨ」


「で……出力は?」


よくぞ聞いてくれましたといったドヤ顔で三波が言う。


「100万馬力だ!」


「失格!失格!ともかく失格だ!走行を認めん!」


「その根拠は?」


「安全でないから。以上だ。ともかく失格。」


取り付くシマもない。せめてライバルをぶっちぎったあとの競合車無しの瀬名の独走を見たかったな。


「コイツには途轍もない才能がある。将来はF1ドライバーかもしれないのにこんなところで落としていいのかヨ?自動車レース界の将来のエースですヨ。将来コイツが成功したときその才能を見抜けなかった愚か者として未来永劫笑い草にされますヨ。」


今度は瀬名を盾にしてゴネ始める。


「ドライバーの才能で落としたんじゃなくて車両が不適合だから落としたんです!なんなんですかそのF1の一千倍強力なパワーユニットを載せたミニクラスカートって!」


 残念な顔をする三波の横で瀬名は安堵の顔をしている。明示されたレギュレーションをすり抜けても車検官の裁量が残っていて助かった。


この事件の後、レギュレーションにエンジンメカニズムと最大出力の規定が追加された。


ーーー

※この異世界でのカートのレギュレーションです。現実のFIAやJAFのレギュレーションとは一切関係ありません。

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