第34話 生きてるタイヤ

 坂本と三波サイクルエンジンに組み合わせて最速とするためのタイヤの要件を整理している中で盲点を発見した。パワーが余るなら捨てれば良いという発想だ。正確には捨てるのではなくていったんナイナイして十分に高速になってパワーを印加しても空転しない状況を見極めてナイナイしてたパワーを解放する。

 具体的にはタイヤが空転しかけたらドライブシャフトの回転をホイール内のフライホイール並びに聖剣素材のゼンマイを巻き上げるのに使い、タイヤがグリップを取り戻すまでパワーをナイナイする。ナイナイしたパワーはグリップが戻る高速走行時の負荷変動に応じてこっそり返却する。トルク重視の聖剣ゼンマイが飽和してからはフライホイールへのパワー保存に行く。フライホイールはいくらでも高速回転出来るので限界は基本的に無い。アスファルトを剥がしてしまう粘着素材は今回は外して普通のタイヤをこの機構のホイールに履かせてテストドライブだ。


おっ、ちゃんと加速して走り出した。がカーブに差し掛かろうとするところから瀬名の絶叫が聞こえた。


「うぎゃぁぁぁぁ!」


声が聞こえるということはまだ音速は超えてないんだな。


ドッカーン!


あれあれ、曲がりきれずというか曲がろうともせず壁に突っ込んだよ……。聖剣素材のシャーシだしアーマーつけてるから大丈夫だと思うが、一応ヒールと聖剣軟膏を持って事故現場に向かう。


 アーマーの効果は絶大だった。こりゃ無理だねと思ってた外装がぐちゃぐちゃになった車体から瀬名が自力で出てきた。


「ブレーキが効かずハンドルがもげた!!!走る霊柩車ですかコレ!!」


 いや、それを言うなら走る棺桶だろう。霊柩車は普通に走るモノだぞ。

 ブレーキ時の挙動を考慮からスッポリ抜かしてた。あとフライホイールが持つ慣性にステアリングが負けてしまったようだ。ホイールに固定設置したのは誤りだった。しかしそれにしても火事場の馬鹿力やね。ステアリング機構をもぎ取ってしまうなんて。


「瀬名くんの犠牲は忘れないよ。この貴重なデータは今後の参考にさせてもらう。」


「まだ死んでません!」


「いや、あれアーマーなければ死んでたぞ」


「そんな危ないもの作らないでください。ちょっとは反省してください!!」


―――

 何度か事故を起こしつつも、坂本と三波で路面状態に最適化して力を印加するからくりホイールを完成させた。

本当は三波はタイヤを作るつもりだったのだが、どうやら素で現実逃避してしまってたようだ。


「からくりホイールで走れるようにはなったけど、走れるようになったってだけでオレの組んだ三波サイクルエンジンのパワーを引き出せてるとは言い難いな。」


「パワーのあふれる分をあとで使えるタイミングのときに路面に伝えるってだけだからね……。限界性能は上がってないというか、単なる省エネ機構というか」


 坂本の指摘は的確だ。別にホイールが対応しなくてもパワーを出さなければ同じ事は出来る。しかし路面状況への追随性はホイールで取得したインフォメーションをCPUに戻してエンジン回転制御してギアを変えてといった回りくどいことをさせるのよりホイールが脊椎反射で現地で自動対応したほうが当然良い。


 「やはりタイヤの限界を上げなくちゃどうにもならないですネ」


 「ちょっと待って、ホイールに動力源が付いたからタイヤに呼吸させること出来るんじゃない?」


坂本と話していたら並木もやってきて提案する。


「呼吸する生きてるタイヤなら、肉球みたいに爪立て走ると呼吸による吸い付きの上限1気圧の制約をさらに超えられるんじゃないかな?」


足生やして走る話にされなくて本当に良かったと三波は安堵した。アクティブスパイクタイヤか。

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