第33話 坂本と共同開発
考えつくようなことはほぼほぼ全て市販のタイヤに搭載されている。市販のタイヤに搭載されているということはタイヤによってライバルと差をつけることができないということだ。ブレイクスルーを打ち出さないと、三波サイクルエンジンによる優位性だけでは勝てない。
「なぜ、こんなにも出来ることは全てやってあるにもかかわらずエンジン出力を受け止めきれないで空転するんだ!」
三波が頭を抱える。聖剣素材は軽く、折れず曲がらずどれだけ力を掛けられてもそもそもほとんど曲がらないが弾性を失わない。これでエンジン、シャーシを作り勝ったも同然だと思っていたが、タイヤがパワーを受け止めきれず空転してしまう。かといって聖剣素材は粘着性と対局に位置する特性だ。むしろ潤滑油不要の超潤滑が掛かってるとすら言える。丸太に突き刺して保存しているが、丸太の繊維を切断してスルっとあたかも初めから穴が空いてるところに吸い込まれるように刺せるのだ。
相談するにしても変なゲーム見せられて感化されてる並木に持っていくとろくなことにならない予感しかしない。タイヤから足が生えて回るような奇怪なアイデアが出てくるに違いない。しかもそれが単なる妄想に終わらず、執念で仕上げてそれなりの結果まで出しそうで恐ろしい。大錬金術師アランに会いに行く口実作りに人工衛星作って軌道投入にこぎつけた野郎だ。油断禁物。結果が出れば良いってもんじゃない。クルマには美学も必要だ。それがどんなに速くとも足が生えたタイヤなど俺が認めない。
孤独な開発になりそうだ。並木が頼れないないなら、あの姐ちゃんか……。今の並木よりはマシだろうが、なんとなくヤツは巨艦主義なほうのトンデモになりそうな気がするんだよな。ナチスのマウス戦車とか戦艦ヤマトとかのような。
それにあの姐ちゃんはいつも並木にべったりくっついてるから単独で話しかけるの難しいんだよな。
悶々としながら斜向かいのゼミ室に行く。
いつも普通のノックだと坂本に怖い目に遭わされそうなので代わりにボールとバットで武装して100本ノックする。あのキチガイマッドサイエンティストに対峙するにはこっちもこれくらい壊れてないと対等な話が出来ない。
ドアに向けての99本目のノックを放った時、パン!という音とともにバットが折れ、握った場所から先が全部吹っ飛んでいるのに手にはかすり傷ひとつつけてない。バットの本体だけが正確に坂本に狙撃されたらしい。すごい射撃精度。
「ちょっとそこ、うるさいよ!」
坂本がホルスターに銃を仕舞いながら出てきた。
「相変わらず、すげぇ腕前だな。」
「銃弾ニアミスしてるのにすごい度胸ね。」
「キミの腕を信じてるんですヨ。」
「事故上等でぶっ放してるのに呑気なもんね。」
「まあ、俺達には聖剣軟膏が余るほどあるし最悪の場合でもヒールでなんとかなるんですヨ」
「言っとくけどものすごく痛いわよ。二度と体験したくないくらいには」
「いや、痛いかどうか知ってる人は死んどるやろw」
「で、何の用?」
「今日は坂本、お前に用があってきた。ちょっとゼミ室まで来てくれ。」
「あら、連れ込んでいやらしいことしようってんの?美人は辛いわね~。」
「この世界のどこに自分に銃向けてきた女に欲情する男がいるかヨ、もっとパワーを受け止められるタイヤを作りたくて良い考えがないかお知恵拝借したいんだ。」
「なんで私なの?並木さんのほうが的確に成果出せると思うけど。」
「昨日のゲームの感想聞いたら俺が何を言いたいかわかるだろ。」
「………。そうね。装着したら怪獣になるタイヤとか素で作りそう…。」
趣旨を理解してくれた。助かる。
―――
とりあえず、坂本に試作品を見せる。極限まで粘着力を高めたタイヤだ。
「粘着力をオレに出来る範囲で高めてみたらこうなった。」
路面を転がすとバリバリとアスファルトを剥がしてタイヤに巻き込み、タイヤ二周目からは路面と巻き込んだアスファルトが触れるだけで何も粘着しなくなった。
「これは……。」
悪い。たしかになんの役にも立たない充分なバカアイテムだ。
「すごいよ三波さん!」
へ?
「つまり、これ舗装路面の限界を超えちゃってるって事でしょ?これより先に進むには舗装すらあてにしない必要があるってことよ。アスファルトの事は無視して次のフェーズに入らないといけないのよ。」
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