第32話 ゲーセンで瀬名の試合を観戦

 瀬名が大型筐体にカードをかざす。画面にはウルトラ・レアランクの面白系パーツ含むフルチューン状態の愛車が映し出される。イベントや特殊な条件を満たした時に限定で出現するレアアイテムには運営が遊んでるだろと思わせるようなヘンテコチューニングパーツが登場し、瀬名の愛車はそんなのばかり付けていた。パーツといってもボディチューンとしてダッシュボード上にぬいぐるみを積もらせたり、極めつけは塗装&エクステリアとしてバードビューに切り替えるとピンクのクマさんの姿になってドスドスと画面を揺らしながら走るようになるという具合だ。


 三波は頭を抱える。並木への教育上非常に有害なコンテンツだ。せめて並木連れて来る前に瀬名の愛車を検閲しておいたほうが良かった。並木ならこの冗談パーツを本当に作りかねない。


「へぇ、こういうパーツがあるんだ〜」

目を輝かせて並木が画面に魅入る。

こらこら真に受けるな!


 瀬名が座った筐体は3DCGで風光明媚な世界中の有名な観光地のコースを貸し切りでレース出来るのが売りのタイトルで、その観光地に世界中から観光客が来るのを再現して世界中の導入店がネットワークで接続されていて対戦出来るようになっている。なお、このタイトルの瀬名の世界ランクは2位。ゲーム雑誌の特集も組まれたちょっとした有名人だ。


 箱根ステージを選択して対戦受付待ちするとすぐに深圳から対戦があった。挨拶文も作文して送れるのだが、ハンドルとペダルとシフトレバーで文章を打ち込む姿は異様だ。


 先方からは「今日こそセナを倒す!」ときたのでこちらからは「俺様の運転に酔いな!」と返す。機械翻訳でローカライズされてるようだが、先方にはどう表示されているんだろう?乗り物酔いを起こす運転に耐えろみたいな意味に誤訳されてないだろうか。


 箱根の街に怪獣(ピンクのクマさん)が襲撃し、それに立ち向かうべくBMW140iに乗り込む対戦相手ムービーが流される。レアアイテム保有者とその対戦相手だけが見れるスペシャルなストーリームービーだ。しかしこんなストーリームービー流してても勝負を決する方法はレースなんだよな。


 スタートラインに敵車のBMW 140とピンクのクマさんが並んで走り出す。レアアイテム装備して参戦してると自然と筐体の後方にギャラリーが集まる。イベントを制した証であるウルトラレアチューニングパーツを装着していると特別なエフェクトが出るのでそれを目に焼き付けに来ているのだ。


 画面には怪獣がクルマと競走するシュールな画面が映し出されてる。段差やジャンプの衝撃を再現するための揺れるコクピットはどし、どし、と怪獣が歩いている振動を再生してる。

 向こうのBMWも速いのだが怪獣もそれに負けない速度でコースを走る。瀬名は「オレのBRZ」と言っていたので、この怪獣は86の改造車ということになっていて走行性能はベース車両のフルチューン状態と同じになって見た目だけ変な被り物をつけてゲーム内を走っているらしい。アイテムは獲得後対戦相手との賭けに出せるそうで、この車両固有というアイテムではない。ベース車両がスーパーカーだろうがスーパーカブだろうが何であれこのアイテムは装着出来るようだ。


 finishの帯を先に通過したのは予想通り瀬名だった。この対戦で手に入れたアイテムは……怪物(花魁衣装)のエクステリア……。柳沢峠ステージで結構凄惨な時代劇ムービーが流れるらしい(それでも勝敗を決するのはやはり普通のレースゲーム)

 このゲームの運営なんでもありだな。


「まぁ、ざっとこんなもんよ」


 瀬名がドヤ顔で腕前を自慢するが、三波は呆然としてる。謎に包まれた半陰陽ふたなりの狂気の天才ゲームプログラマーが一枚噛んでると噂されていたタイトルだが、通常プレイ時の抜群の臨場感とリアルなクルマの挙動に完全に騙されていた。やはり頂上合戦の勝負になるとプレイヤーはもとよりステージであるゲーム世界も狂気が滲み出てくる。 


「すごいドライビングね。あの絵でよく場所や状態や挙動が掴めるわね」


坂本は瀬名のゲームプレイのテクニックに魅了されている。一番冷静だ。


「ぼく、あんなスーパーパーツを現実に作ってみたいな。」

案の定並木は予定外の方向に興味を持ってしまった……orz

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