第28話 聖剣抽出液
並木は教官が捕虜になってた間に奪われた二つのうち一つあれば生きられる臓器が片方になってる部位を練習台にさせてもらい指導を受けながらエクスリカバーを習得した。
教官がさらに顔色も良くなり「いつになく健康になった気分だよ。」と完全体に回復して喜んでいる。確かに聖剣を使った回復が出来るようになった。ちなみに三波は出来なかったそうだ。
これは錬金術じゃないような気がするが、これをポーションに出来たら凄いことになる。基本的に斬撃と共通の成分が使われるのでエクスリカバーで取り出せる成分が有用ではあるが超危険物であることに違いはない。抽出に成功しても普通の容器に受けた途端に大爆発するということもありうる。
「見えない液が患部に流れて作用して消えているのはわかった。でもこの液、アレの一種だよね。きっと。」
「だな。オレにはその薬効成分は認知できなかったが言わんとすることはわかる。狭心症の
「前の慣性軸受の仕掛でどこにも触れずに浮かしたまま保存って出来ないかな……。」
「真空中にどこにも触れないように保存か。それを一度作ると移動出来ないな。自転公転だって一定の速度ではないから差分で容器にぶつかる時も来る。全然現実的じゃない。むしろ、薬効を発揮してるとき何故正物質だらけのこの環境で爆発しないで作用しているのかのほうがよほど興味深い。トータルではその重量分の熱となって放出されなくてはおかしいのに明らかにエネルギー保存の法則に反する事が起きている。」
「反物質が正物質と反応するエネルギーを使って即座に正物質を形成したならばエネルギーが物体に変換されたということで辻褄合わない……よね。ごめんデタラメ言った。」
「うん。今の常識ではそれはデタラメと考えても仕方ないが、まんざらでもないかもしれない。その治癒された体組織は明らかに増えている。陽電子と陰陽子、反中性子が緻密に組み替えられて正物質になるメカニズムがあるのかもしれない。そしてそれくらい緻密な組み替えが気が遠くなる数の原子でまんべんなくタイミングもずれることなく規則正しく発生させられるなら、原子を並び替えて人体を形成することなどチョロい筈だ。」
「それを解き明かせられれば聖剣素材は宝の山だね。」
そんなの解き明かさなくてもそのまま聖剣素材は宝の山だぞと指導教官からツッコミが入る。現代の錬金術すら必要なく、エクスリカバーの術だけで外科医を開業出来ると。
「俺には認識できないんだが、その聖剣からぶちゅーと出るというやつ、もしかしてゲルみたいなやつなんじゃないか?」
「うん。ゼリーみたいなやつ。流れるというより押し流す感じだね。」
「斬撃はどうだ?」
「出したことないからわからない。」
「ガスみたいな奴だ。」
教官が教えてくれた。
「ということはつまりガス状だとぶつかると爆発するが、ゲル状だといっぺんに全部がフェーズを変えて正物質に変わることが出来るみたいな事かもしれないですヨ」
「かと言ってぶっつけ本番でやったらやっぱり爆発しましただと危ないよね。」
「少しのとりわけが難しいよな。ゲルだと判る大きさだと質量消失したら洒落にならない量になるし。」
「お前の得意な遠隔魔術でエクスリカバー出来るか?」
「多分できるけど……どうするの?遠隔だろうが接触だろうが同じだよ?」
「反物質の抽出を絞れないなら正物質が希薄なところでやればいいじゃないの。」
「つまり……?」
「真空瓶の中で抽出して宙に浮かせて、真空になりきれない残留空気と反応するかを確認する。」
―――
ガラスの真空瓶の中に一欠片の聖剣の葉を入れ、並木はマジな目をして手をもみもみする。あまりもみすぎて全部出したらまずいので限りなく少なく、かつ斬撃なのかエクスリカバリーなのかが見分けがつく最小の量を絞り出す。一雫の何かが出たら、それをどこにも触れないように静止させる。ガラスの外から赤外線からガンマ線までエネルギー照射を計測しつつそっと空気を入れる。極めて希薄な空気であってももしもむき出しの反物質であれば激しく反応するだろう。少しづつ少しづつ空気を入れ、ついにエネルギー照射を記録することなく瓶の中が一気圧に戻った。液も宙に浮いているが、空気は大丈夫ということがわかる。ガラスも多分大丈夫なので、雫をゆっくりとゆっくりと触れさせる。照射は確認されなかった。
並木はいやらしい顔してもみもみしてた手の力を抜き、顔にびっしょりかいた汗を拭い、安堵の声を漏らす。
「つまり、普通に大気中で瓶に入れて保存出来るってことだね。」
蓋を開けてみると全ての心配事ははじめから必要なかったが、母なる自然は性悪女だから、心配もせず一気に抽出したら爆発するということになってたかもしれない。未知の事柄に関する知識とはやってみることだが、やってみたら不思議な力で死ぬことになったりしたら困る。最悪の事態を想定して実験しなくてはならない。結果としてその注意が要らなかったのは無駄足だったのではなく必要な手順だったのだ。
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