第27話 エキスリカバー

 ヒールのレシピをもとにポーションを作る計画は白紙に戻ったが一定の成果は上がった。今まで伝説の中だけの存在とされていた大錬金術師アランとの顔付けが出来た。期待してたのと全然違った。紛れもなく超人なのだがものすごくカッコ悪く、紛れもなく手先は器用なのだがものすごく不器用な男だった。

 ヒールのことは一旦忘れてゼロから新しいポーション作りの方法を模索してたとき、三波がちょっとゼミ室に来いと呼びに来た。


 三波のゼミ室には久しぶりに見る彼の指導教官がえらく上機嫌で奥のデスクに座っている。指導教官のところに行き挨拶をする。


「お邪魔します。」


「こちらから呼びに行ったのだ。来てくれてありがとう。」


 三波が並木に先日教官により使用済みとした聖剣を見せる。

「それは聖剣…。」


「まず、これを持って見てくれ。」


「か、軽い!何かしたのか?」


「教官が聖剣の使い方知ってたんですヨ。そして下ごしらえをした聖剣はこのように軽くなり、斬撃も飛ばなくなる。つまり斬撃の成分を抜くという加工が出来るということだ。そして斬撃の成分は前の予測通り……」


「反物質を内包する構造!」


「そういうことだ。反物質が含まれなくなれば爆発の危険も少なくなり格段に加工しやすくなるってコトヨ。これから共同で加工技術を研究していこう。」


「でもどうやったら抜けるの?」


「それが、ちょっとわからねえから教官に教えを請うしかないんだ。そして説明聞いてもちんぷんかんぷんだったから並木も教官に聞いてやり方を俺にもわかるように説明してほしいんヨ。」


三波が概要を説明すると、教官は立ち上がり、顔の抉れた場所を指差し、「コイツもオレのトレードマークだったが、今日でその日々もケリがつくな。」


 待て、なんで教官指生えてる?この教官は戦場で片腕全部ともう片手のほうも指三本を失い、名誉の負傷として軍人年金がわりに教官の職をもらった人じゃなかったっけ?


「政府の軍人年金だのみでしかない名誉の負傷など、全ての人の生活をより豊かにする新素材技術の発明という大名誉の前には無価値も同然だ。いくぞ、エクスリカバー!」


教官は前差くらいの短い聖剣を掲げ、呪文を唱える。すると抉れた顔が完治していた。


「とまあ、こんな訳だ。」


どういう訳なの?全く理解できないよ。


「聖剣を使って治癒が出来るってこと?」


「いや、そっちじゃねぇ。これを済ませた聖剣からは何かが抜けて斬撃が飛ばなくなるんだ。」


「えっ!何そのご都合主義展開!それって控えめに言って最高じゃない?」


「だろ。でもこうする以外に斬撃を無効化する方法がわからないんだ。しかも既に治った場所に同じことをやろうとしても聖剣に弾かれて反応しないんだ。オレたちは無毒化された聖剣が一定量欲しいのに、その量を確保出来そうにない。だからこの反応を人工的に発生させるのが当面の課題なんですヨ」


「それはそのままヒールの代用になるじゃないか!」


「ん?まぁそうだな。でも街ん中聖剣佩いて徘回してたら危険人物の不審者で即逮捕だぜ。」


「ご都合主義展開なんかじゃないですよ。昔から聖剣はそういうモノで、だからこそ勇者を志す者が求めては散っていった。君たちの日頃の行いが正しかったから、神様が君たちへのご褒美にと聖剣の特性を複数の側面から有効利用できる流れに君たちを置いたんですよ。」


 三波の教官は死地を何度もくぐり抜けてきた猛者である。そのたびに何か奇跡が起こり生き残ってきたせいかとても信心深い。錬金術師ではあるのだが、錬金術など広大な砂浜できれいな貝殻を見つけて喜んでいるのに過ぎないと本気で思っているフシがある。きれいな貝殻一つでも出逢えば食いっぱぐれがない事なんかすっかり忘れて。


「もし本当に、神が俺たちにご褒美としてくれた流れであったなら、どうして斬撃が抜いてある聖剣をくれなかったんだろう?その工程も馬鹿にならないのに。」


 並木が突っ込むと判を押したような回答が教官から出てきた。俺達なら乗り越えられるだろうという試練として……だそうだ。


「で、それはどうやるんですか?」


「治癒したいところの治った姿をイメージしてだな、そこへのチャネルをスルスルと結びつけて茎を握りしめてぶちゅーと絞り出して流し込むイメージをしながら、エクスリカバーと詠唱するんだ」


スルスルとかブチューって……。

三波は「わからん、任せた」と言う顔をしてる。

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