第26話 ヒールの謎はまだ謎なのだぞ

 ポーションは数多あるがアラン印の通称「ヒール」はその効力において飛び抜けてる最高級ポーションであり、これを自分で作れるようになるのがすべてのポーション職人の目標となっている。

 しかし解析してもさっぱり手がかりがつかめないので、やはり製造元に聞くのが一番だとアランに接触を図れたのまでは良かったのだが、接触するためにでっち上げた正直どうでもいい案件だった衛星にダメ出しされた挙げ句魔改造を施されて弾道軌道投入と大気圏再突入を行った。どうでもいいはずの案件がマジになっていた関係で本題のヒールの話に入れなかった。というわけで収穫ゼロである。どうすればいいのか?一部始終を三波に語り相談する。


「……というわけなんだ。」


並木はマジだが三波はゲラゲラ笑いこけてる。

「お前さんも大概なモンだわ。なんで人工衛星にセンサーとロガー仕込もうと思ったんだよwそんなもんそこらの石ころでも投擲させときゃエエんよ。」


「うーん……、だってもし本物の大錬金術師さまが来たなら失礼じゃん?学校の課題ってことにしたら多少粗相があってもガキにすることはしゃあねえなで見逃してくれるだろうし、そこらの石ころ投げさせるなんて明らかにおちょくってる感じじゃない?」


「で、先方もネタにマジレスしてボールを魔改造して本当に宇宙行っちゃうんかよwwwwありえねぇwwww」


「僕たちが行ったんじゃないよ。衛星が弾道軌道で行って帰ってきたんだよ。」


 ネタにマジレスはいうだけなら誰でも出来る。しかし並木とアランはスキルがぶっ飛んでてネタと気付かずマジでやってしまったのだ。普通はネタは途中で実行できないことに気付いて急に冷めるもんだが、普通なら出来ないこともできてしまうからおかしいことやってることに気が付かないのだ。


「お前ら本当にチートだわw」


 質量消失エンジン発明したTheチートに言われたくありません。


「でも、次はどうやってヒールの話を切り出せばいいかが分からなくて……。」


「次はいつ会うんだ?」


「頼む案件が考えつかないんだよ。」


「おめぇ、成功報酬払ったのかよ?次の案件用意しなくてもそれを言い訳に交渉すればいいじゃないか。成功報酬として高級レストランでおもてなしするってことにすれば話す時間も確保できるだろ?」


「あっ、そうだ。でもそのために衛星のログ解析まとめてそこの現象の考察書かなくちゃ……」


「お前、そういうところだぞ。」


―――

 三波の提案で、成功報酬という建付けでイアン経由でアランの都合のつく日を聞き出し高級レストランを手配する。


 「いやぁ、僕はちょっとこういう店には慣れてなくて……。」全然板についてないぎこちない正装に身を包んだ大錬金術師アランがナイフとフォークは使い方がわからないからと割り箸を所望する。えっと……アランさん、西の方の人だよね?


「だいたい山の肉と野草、川の魚食べてるからね。あんまり凝った料理ってのはよくわからないんだ。掴み食いが基本だねぇ。」


 いちいちツッコんでいたら寿命が尽きそうだ。仙人みたいな食生活をしてるんだぐらいにゆるく捉えることにして、本題に入ろう。


「ところで、あのヒールというのはとても美味しいですね。」


「あぁ。あれはうちのカミさんがね。神殿の神官さんたちのために開発した謎ドリンクなんだ。」


「謎ドリンク……?!。」


「いや、どう考えても謎だろあれ。かければ死体が蘇生するし冷やして飲んでも美味いし。うちの家庭の味でオレも季節になると駆り出される。」


「えっと……作用機序とかそういうのはわかりますか?」


「いちいち気にしてたらうちのカミさんとはやっていけないよ。女とうまくやってくコツは男の側がひたすら譲歩して自分を出さずに平身低頭で空気になりきることだ。」


 恐妻家のようだ。しかしその一方で話のところどころから奥さんを崇拝している様子も漏れてくる。(女にとって都合の)いい男だ。


「つまり、作ってる本人でさえどうしてこうなるのか分からないって事なんですか?」


「あぁその通りだ。期待させて悪かった。」


 まさかの作った人も知らなかったってオチ?


「なんで効くのか分からないから薬効はうたってない。飲み物として渡してる。」


ということは、効き方へのクレームも適量に関する要望も一切受け付けないよってことか。


「外用薬として使った時の呪いの噂は知ってますか?」


「あぁ、聞いている。僕はそんなことをするつもりはない。もしかしたらレシピにそれを実現する何かが混入してるのかもしれないけどレシピもその全貌はわからないんだ。僕がやってるのは呪文を掛けて瓶を振る工程だけだからね。」


 接触を図ったが得られるものはそこにはないらしい。


「呪文……?ですか?」


「ある場所で、瓶に川の水を少々入れて、美味しくなぁれ、美味しくなぁれと呪文掛けて瓶を振るんだよ。僕がやってるのはそれだけ。その場所の空気も川の水も全てカミさんが用意したものだ。僕がやってるのは瓶に詰めてるだけだよ」


 呪文の嘘臭さはきっと本当の呪文は機密情報だから教えられないから適当に誤魔化してるのだろうが、川の水と空気からヒール作ってるってそれ実質的にアランさんが作ってるって事じゃないか。全貌がわからないってそれが全貌じゃないか。


「それが全工程なんですか?」


「いや。川の水とその場の空気は与えられたモノをそのまま使っている。だから僕はヒールを作り出したんじゃなくて、水と空気を加工してヒールの形にまとめているだけなんだ」


水と空気はタダだろ?

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