第25話 衛星回収

「いいえ、大丈夫です。キャッチはお任せください。」


「あぁ、その衝撃吸収スーツな、衝撃がキミの身体に入らないのはわかるんだが、おつりが衛星に返されてまたどっかに飛んでいっちゃうだろ?」


そこまでお見通しだったのか!間違いない。この男やっぱり大錬金術師アランだ。このしょぼくれたボヤキ系のさえないめんどくさいおっさんだから「さま」はもう付けない。


「投げた球はこの向きに落ちてくる。ここに平面の反発材をこの向きに置けば、こっち向きに跳ね返る。君の新素材耐久性試験に置いてみるかい?」


アランは土に枝で矢印を描きながら、衛星の弾道とどうぶつければいいかを示す。

跳ね返した球はキャッチしてくれるらしい。

言われるままにアーマーを置く。


「まぁ、言い出しっぺはオレだから今回はいいけど、防具は知らない人の前で外すなよ。弱みを見せると無限につけあがる人間って居るからな。いや多数派はそんな奴ばっかりだと思え。人生の先輩としての忠告だ。試験資材は別途用意して来るように。」


 この人なんかものすごい人間不信に陥ってるみたいだけど、いったいぜんたい何があったんだろう?すべてのポーション職人が目指す頂点に君臨する大錬金術師様じゃないの?

 そうだ、ヒールについて聞くためにこの場を設けたのだった。衛星の工作精度など全て会うための大義名分であって、本当の目的はヒールの感想を伝えることと、仕様を変えたいから作り方を伝授して貰うことだった。


「ところで、ヒール治癒瓶のことなんですけど……」


と並木が話しだした途端、アランは急に顔つきがマジになった。


「戻ってきたぞ。耳を塞げ!」

大急ぎで耳をふさぐ。


バシン!ドスン!キーンシュゴー!


設置した衝撃吸収素材に反発し、それをアランが素手でキャッチする。勢いを殺すためにブランブラン腕を回して受け止め、ゆっくり速度を落としている。まるでマシーンのように正確に腕が回転してる。腕からは爆音が振り撒かれている。音速を超えたときに出るという衝撃波ソニックブームだ。


くるくると機械のように正確な円周を回ってじわじわと速度を下げる。


「ほら、言ったとおりだろ。キミの素材はたしかに衝撃に耐えて、中に衝撃を通さない。これだけで大したものだが、余ったエネルギーを取り消すものではない。跳ね返ってしまう。冒険者のタンク役をするならその跳弾で仲間を殺してしまうかもしれない。跳弾に対応するにはメンバー全員がこれを着なくてはならない。するとどうだ?タンク役なんて要らないと言われて追放ざまあモノ一直線だ。」


あの~……追放ざまぁモノって何ですか?


「ほら、早速データ見ようよ。ちゃんと投げたしきれいな形で戻ってきたんだし。」


衛星の外装は明らかに黒焦げになっており表面のカバーは痛々しく燃え尽きたカスのようになってた。


「これのどこがきれいな形で戻ってきたんですか?」


「あれ?キミ、衛星回収したことないの?こんなの極上だよ。表面が雑な仕上げだとそこからの摩擦熱で全焼して何も残らないのが普通で、形が残ってる上におそらく観測機器もロガーもまだ生きてる。大成功だよ?」


あの……。日常のちょっと珍しい体験みたいな感じで衛星打ち上げと回収しないでください。そして、どこの世界に課題で衛星上げる学校があるんだよ?真に受けるなよ!!

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