第24話 大錬金術師アラン

 待ち合わせに指定した山中にくたびれたTシャツ、ジーパンに身を包んださえないオッサンが背中に白いギターを背負って現れた。この人もしかして狙ってる?


 「はじめまして。衛星打ち上げの案件を受注したアラン・マクドナルドと申します。基本料金は前払い、成功報酬は結果を確認して気が向いたときで構いません。」


 名前はアランだが、この人が本当にあのヒールを作った大錬金術師アランなのか?それともたまたまファーストネームが同じなだけのニセモノ?僕の憧れた大錬金術師アラン様はこんなんじゃない!!


 とりあえず500円玉を渡す。正直このカネは捨て銭覚悟だが、仕事という建前のために作った衛星のほうが総製作費4835円掛かってるので、壊されるとちょっと痛い。


「では、ボールの方を確認しますんでちょっと見せてください。」


ボール?!人工衛星だぞ。とりあえず渡すと手に馴染ませるようにぐりぐりと感触を確認して、しばらくすると


「これは賭けだな。使い捨てといえども打ち上げの加速で中の機器が壊れる可能性が高い。ゆっくり加速して投げるようにするけど壊れたらもったいないよ。お金の問題もあるけど課題でしょ?出せなかったら成績に響くんでしょ。ちょっと改造して良いかい?」


 まさかのダメ出しにさらに改造の提案だ。


「その費用は見込んでませんでしたので今はお出しできません」


「いや、今は要らないよ。成功報酬の寸志が欲しいから。成功報酬に任意で上乗せしてくれればそれでいい。中を見せたくないと言うなら注文通りこのまま投げてみてもいいよ。」


 猛烈に胡散臭い男だが、まだニセモノと決まったわけでもない。お手並み拝見という意味では、やってもらったほうが良いだろう。


「では、対応お願いします。」


アランは実に要領よく衛星を分解して基盤を取り出すなり、基板にもダメ出し。


「ほらぁ、ハンダがダマになってるぅ。これじゃあ音楽性の前に本番パフォーマンスに耐えられずに断線しちゃうよ。これだからお坊ちゃんお嬢ちゃんの学生さんは……。」


手持ちの鞄からはんだごてとソルダスポイトを取り出し片っ端から部品を付け直す。音叉や予備のピックアップも入っていたのでこの鞄はギター用ということなのだろう。


「あと、ハンダはな、ローズだかローズマリーだか何だか知らないけどちゃんと鉛入りのを使わないとダメだよ。仮止め用に鉛フリーも持ってるけど見てよ、この扱いの違いを」


 ポイっと二巻のハンダを投げつけられる。片方が鉛フリー、もう片方が普通のハンダだったが、ラベルにブランドが提示してあるのは普通のハンダで、鉛フリーの方は製造元電話番号と住所は印刷されていたが、ブランドも会社名も印刷されてない。なお製造元住所、電話番号は同じである。


「これ、片方ニセモノというかバッタモンってことですか?」


「どっちも製造元から直接買った正規品だよ。つまり鉛フリーの方は会社としての誇りを持って自分とこの製品だとはとてもじゃないが言えないって言外ににじみ出てるんだ。」


「ぐ、具体的にどうダメなんですか」


「すぐに疲労限界に達してクラックが入ってしまうんだよ。」


「よし基盤はなんとかなったぞ。次はこのセンサーだけど、これ使えって課題の要件?なんならボールの内面自体を使って熱電対を形成して温度取るようにしたほうが部品点数も減るし基盤に入る衝撃も減るよ?」


もうお任せしよう……。

「いえ、別に課題の要件ではありません。機能するように手直しお願いします。」


 そしてみるみるうちに中も外も魔改造を施されてしまった。外装については触っただけでここが約0.52nm凹んでるとかここを押さえつけてとかボヤいて補正して撫で回してコレで良いと納得している。見た目は前と全然変わらない。

 まだ納得できてないが、この人がそれなりの錬金術師であることは間違いないだろう。


「で、投げるけど、どこで拾いたいとか要望ある?」


「飛ばしてどれくらいで帰ってくるんですか?」


「そうさね、ざっと2時間くらいかな。ここで待つかい?」


 2時間あるならその間に錬金術談義も出来そうだ。


「じゃあこの山の中にお願いします。」


「ガッテンだ。耳塞いどけよ。」


あれ?なんで耳塞がないといけないんだっけ?と理解が追いつかないまま、言われるままに耳を塞ぐ。


ドカーン!!


モーションを起こし衛星を投げると同時に衝撃波ソニックブームが広がる。


「じゃあな。坊主……と言いたいところだけど、その様子だとキャッチする準備してなさそうだね。仕方ないな。大気圏再突入時の空気抵抗でちっとは減速するが、基本的に投げた速度で落ちてくる。再突入の減速分入れても105mm砲弾の10倍くらいの破壊力があるぞ。おじさんがつかまえてやろう。」



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