第23話 学生が真っ昼間からヒール
「いただきます。」
並木たちはイアンのおごりで、まさかのスーパーエリクサーをまるでビールか何かのようにゴクゴク飲む。美味い。
昼間から飲むヒールがこんなに美味しいものだったとは思わなかった。怪我もしてないし体調も悪くない、そして昼間なので疲れてもいないのに、ただ冷えてるだけのヒールがこんなにも美味しいとは!死んでもいないのに生き返る味なのだ。
ただ、若干の背徳感も感じる。このスーパーエリクサーが適切なところに使われたなら何人の命が救われたのか。こんなところでただ味わうためだけに飲んでて良いのだろうか?やはりどんなに美味しくてもただ味わうために浪費しているというのは気が引ける。
「あぁ、実はオレも聞いたことがある。ヒールをかけると死体さえも蘇生するって都市伝説な。飲み物を粗末にしちゃイカンぞ。ヒールは飲むためのものだからな。」
イアンにとってはヒールは飲み物であってエリクサーとかその手のものではないらしい。
「それに、その都市伝説の続きとして、薬としてヒールを使うと罰が当たるってのがあるんだ。良くは知らねえけど、たしかに治癒するが誰もヒール使った人に感謝しないしなんなら謂れもない非難を浴びる呪いが掛かってるって噂だ。罰というのもアランの奥方が本人自己申告通り本当に女神ならあり得る話だ。そこは言いたくないから誤魔化してるってだけだろうがなガハハハ。」
……噂は本当だと言わざるを得ない。瀬名にかけたとき明確に周囲はその行動を不自然なほどに非難してた。
「まっ、飲み物は飲めってだけの話だ。飲んで不幸になったやつの話は聞いたことがない。まだ5本くらいあけられるぞ。」
そう言ってイアンはさらに栓を抜き注いでくる。受動的に得られる情報はここまでといったところだろうか。いろいろ聞いた限り、アランという大錬金術師さまは相当めんどくさそうだが、とりあえず本人に会って話をしてみたい。
「そのアランさんに会ってみたいんですがどうすれば会えますか?」
「ほほう。アイツにあってみたいと来たもんだよw。ふたつ方法がある。ひとつは明らかにヤツしか出来ないかヤツでなければペイしない仕事を職安……いや冒険者ギルドに掲示すること、もうひとつは冒険者ギルドが開く前の時間帯に顔付けの雇用者といった体で待ち構えてオレを探せば連れてきてやる。」
「例えばどういう仕事の依頼を出せばアランさんしか出来ないとかありますか?」
「そうさねぇ……。例えば、人工衛星の軌道投入を500円でやってくれとかそういうナメた依頼だな」
人工衛星の軌道投入といえば打ち上げたらそれで終わりのロケットを作って絶え間なくつきっきりで人が張り付いて制御して数億円の費用がかかるものだ。それを500円って何?数億で用意したロケットを参加者で割り勘するにしてもどれだけ小さい衛星になるのか。
「そんな依頼、受付が受けてくれるんでしょうか?」
「あぁん? あそこ、そういう無理難題も盲判で掲示してるぞ」
―――
主目的はアランに会うことではあるが、ウソは良くないので、人工衛星の試作品を弾道軌道に乗せて回収する前提で各種センサーとロガー、試料を詰めたボールを用意して仕事の掲示を行う。
建前は軌道上での気圧、温度変化、加速度、気圧の4指標を時間軸にまとめて記録し、宇宙空間に求められる素材の特性を研究するゼミの課題ということにして人工衛星を作る。
求人票には、課題の各種センサー搭載人工衛星の弾道軌道投入。単価500円+成功時寸志ありと記載して掲示した。誰がこんなナメた求人に応じるんだ?
果たして、2週間後に受注者が現れたとの連絡を受けたが、明らかに冗談受注者だ。面談して現物渡すために会ってみたが絶対にこんなヤツが大錬金術師のアランさまであるはずがない!
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