第22話 ヒールは飲み物です!
次の日はヒールの仕入れ先を知るためのランチ。料理が届いたときに店員をつかまえてヒールの話を振る。単刀直入にズバリどこで買えるのか。
「このヒールってやつ、どこで売ってるんだい?」
「ヒール美味しいですよね。蒸し暑い夏にキンキンに冷えたヒールを飲んだ瞬間、あぁ、このために生きているんだって感じですね。持ち帰ってぬるくなったら美味しくないですよ。」
はぐらかされた。それにヒール?飲むの?
っていうか飲めるの?飲んで大丈夫なの?
「うん。自宅用にケースで買いたいんだが、どこで買えるか教えてくれないか?」
「おう、兄ちゃんたちヒール求めてここ来たんか?」
隣の席に座ってる冒険者風の男が話しかけてきた。
「それならよ、オレが納品してるんだぜ。作った奴から貰い受けてな。」
「あの、失礼ですがどちら様ですか?」
「あぁん? 人の名前聞くときは自分のほうから住所氏名電話番号名乗って秘密保持契約にサインしてから、『よろしければ、お名前は?』だろ?」
うわ、めんどくさい……。とっととこの場を去りたい。
「じゃあいいです。」
「なんてな。ヤツなら、どなた様ですかと聞かれたらドナ・サマーよぉって言うだろう。オレはイアン・ドロンってんだ。ヒール作ってるアランとは仕事仲間だ。時々作りすぎたからみんなで飲んでくれって言っておすそ分けしてくるんだが、いちいち尋常じゃない量を渡してくるんだ。」
えっ?ということはこの人も錬金術師なの?
「お仕事仲間ということはイアンさんも錬金術師なんですか?」
どう見ても冒険者か革命家のような姿だが、人を見た目で判断してはならない。
錬金術師かと言われて面食らったイアンは言い訳のようにまくしたてる。
「いや、オレはギグワーカーだ。早い話が何でも屋だ。アランも時々、職安……じゃなくて冒険者ギルドで仕事もらって時々アランと一緒にやるんだ。腐れ縁ってやつさ。まあ、ヤツはそんなことしないでも暮らすのに困りはしない。趣味で仕事してるような感じのヤツさ。専業にしなければ、再生産を考えなくてよければ人は誰でも錬金術師なり動画配信者なりなんでもなりたい自分になれる。」
このおっさんが口からでまかせ言っているかもしれないというのはおいておいても、アランに関してアクセス出来る情報源は今はこの人だけだ。聞けるだけ聞いてく。
イアンというこの男の情報によると、アランという男は西方極楽に女神とともに住み、季節の節目節目にヒールを作っては、尋常でない量の余りを出して、おすそ分けしてくれるらしい。当初は折角飲んでくれと渡されてるので可能な限り自家消費を試みたが、飲み切るとどんどん渡される量が増やされ、増やされても初めは親戚やご近所に配ってたが気持ちよく受け取っていると無限に増えていく感じで、ついにブチ切れて店に卸してるそうだ。それを知ってもアランはおすそ分けをやめないらしい。
特に西方極楽に女神とともに住んでるみたいなくだりはなにかを隠している隠語のような気もするが、住所に関する事は機微情報に該当する。探してる人がいたからといってホイホイ教えていいものじゃない。ちょいとおかしな誤魔化し方だがそこはプライバシーの問題。深追いはしない。
大事なことはアランが時々職安……もとい冒険者ギルドに現れて単発の仕事をやるということと、おすそ分けが尋常でない量となっているということだ。しかし10ccで人が死体から絶好調の完全体に癒えるヒールがさらに尋常でない量渡されるってどういうことだろう?
「今日に至っては卸してる店に受取拒否された分まで出たぜ、これはオレの持ち込みだ、持ち帰るのもなんだから飲め。」
イアンが無造作にヒール瓶の王冠を抜き、グラス出せよと言わんばかりに瓶を差し出してくる。グラスを差し出しヒールを御酌してもらう。
黄金色に輝く液の上に純白の泡がかぶさり、実にうまそうだ。しかしこの液は身体に振りかけて致命傷をも治癒する外用薬のスーパーエリクサーだ。飲んでいいんだろうか?
「これ、傷口に塗る外用薬じゃなかったんですか?飲んでいいんですか?」
「ハァ?!! ヒールは飲み物に決まってるだろ。何変な使い方してるんだ?」
並木たちは、初めてヒールを飲用する。
うまそうな見た目に違わぬスッキリした喉越し、疲れがぶっ飛ぶ生き返る味わい。これならいくらでも飲める。この店の店員もヒールは本当に飲み物として認識していたのだった。ヤバいブツの取引の符牒とかじゃなくて全部大真面目に飲み物の提供のつもりだったのだ。
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