ポーション調合

第21話 (並木side)ヒール製造元を求めて

 (時は遡り、三波が聖剣の素材化を試みて四苦八苦してた頃のお話。)


 ヒールを仕入れに再度学生街の一角にあるキャバレーに向かう。今回は、三波のほか坂本親子、瀬名も一緒の大所帯だ。店が潰れてなければまた買えると並木が以前言った通り、特に問題なく買えた。ピッチャーでの提供を勧められたのでそれを断って、食前食昼食後で時間が開くから気が抜けないように未開封のまま別々の瓶でくれと言い訳をして合計三本購入した。


 一番驚いていたのは瀬名だった。それによって生命を救われた神グレードの回復薬が、本当にランチドリンクのノリでオマケのような値段で手に入ったということと、何ら特別なもののようでなくテーブルに無造作に栓抜きと一緒に届けられたということのその両方に。


 「これ、本当にすごい効果があるエリクサーでしかもむっちゃ安いんだけど、どうしてこんなに面倒くさい買い方しないといけないんだろうな?」


 瀬名が驚き呆れている横で、並木もヒールの謎について思うところを漏らす。


「単品で安く買えたら坂本みたいなやつが買い占め転売ヤーするからに決まってますヨ」


「しないわよ!」


「必要のない人はどれだけの金銀財宝を積んでも手に入らないが、必要なところにはタダ同然で行き渡ると伝説にありますから。」


「それならどうしてこんな常設の店で買えるのかなんだよ。店が唐突に現れては消えるってのならそのヒールが自ら誰のものになるかを選んでいるってのも納得するんだが、買い方の符丁はあるにしてもここに来れば必ず買える。これがどうしても腑に落ちないんだ。」


「そりゃ、体よく人数あたりの割当量を厳守させてるってことでしょ?ランチと一緒にしか注文できないんだから、一人でランチドリンクだけ2つとか4つとかありえないでしょ?」


「さすが坂本、やろうとしてることが出来ないからすぐわかるってことかw」


 三波がケラケラと笑う。


「だからやらないって!」


「ゼミ室で出来る範囲の解析はしてみたけどやっぱりわからなかった。ここはやはり作った人に教えを乞うのが一番手っ取り早いと思うんだ。それに仕様面で言いたいこともあるし。」


 この「ヒール」という液体、時計反応のように何も起こらずにきっかり5分後に、効きすぎなぐらい強烈に効く。反応が起こるまでの5分という絶妙な長さは人々が期待を持ってから諦めるまでに充分な時間で、何も起きないじゃないかとしびれを切らして怒りを爆発させる。この性質によりヒールで人命救助しても非難こそされ感謝や賞賛されることはまずない。称賛してくれとは言わない。せめて作用中であることがわかる演出か、もう少し時間が掛かって怒りを通り越して諦めに入るまでかかるほうがまだマシだ。そういう感想を伝えたい。


「誰が作ったかわかるの?」


「作ったのはアランという名の大錬金術師様だということは割れている。顔も多分だけど知っている。だけどどうすれば接触出来るのか皆目見当がつかない。」


「そういうのは、尾行、つきまとい、素行調査スキル持ちの私にお任せあれ」


「先方と良好な関係を築きたいので却下。機嫌損ねたらヒールが手に入らなくなっちゃうよ。」


「それでヨ、まずは正攻法で聞いてみたんか?」


「というと?」


「まずはここの店員に聞くんですヨ。それを提供してるということは仕入れているということですヨ。そして仕入れてるということは問屋かメーカーとの接点があるってことですヨ。どっかから湧いて出るなんてことはありえない。取引の連鎖は必ず消費者から製造者まで顔見知りのつながりどうしでつながってるんですヨ。」


「やってなかった……。」


「話にならねぇな。裏技は正攻法がダメな時初めて使うことを検討するもんですヨ」


「なんか、触れてはいけない神秘のような気がして。」


店員に聞くにしても、この店は食券方式なので、食後は店員と会う必要がなく、料理の提供を終えた店員はカウンターの奥でくつろぎモードに入ってて、非常に声をかけにくい。また日を改めて聞いてみよう。

 

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