第20話 毒抜き下拵え

 「聖剣だと?!頼む!ちょっと持たせてくれ!」

 教官がいつになく興奮してるがもはや処分しなくてはならない邪魔なゴミの山だ。二三振りと言わずゴッソリ半分くらい持っていってくれると助かる。


「素材ならそこに積んでありますよ。」聖剣が積み上げられた山を指差す。


「も、もらっていいのはどれかあるか?」


「研究材料ですが、集めすぎました。半分くらい持ってっちゃってください。」


「こ、これもらっていいのか?」

 教官はぷるぷる震えながら小さな聖剣の葉の茎を掴み、三波に見せて確認する。


「どうぞ。」


教官は茎を掴み魔力を流し呪文を詠唱する。


「エクスリカバー!」


指2本とそこに添えるような形で短い指三本で掴んでいた手が聖剣ごとひかり、光が消えると今までなかった教官の中指が立っていた。


「ほ、本物だ!!」


教官がいつになく興奮して説明してくれる。

「聖剣は欠損した四肢の回復も出来るんだよ。ただし聖剣が認めた主が一度だけ使えて、その後は斬撃が出せなくなりただ軽くて丈夫なだけの普通の剣になってしまうのだが……。」


えっ?なにそれ控えめに言って最高じゃない?


「それは助かります。悪いとこ全部回復しちゃってください。出来ればそのクソ長いの五本くらい使って」


「ほ、本当に良いのか?」


「ええ、斬撃が邪魔で邪魔でしょうがなかったんです。本当は斬れ味も失われてくれたらもっといいんですが、斬撃がなくなるだけで一気に加工もしやすくなりますし。そのまま使えるようにもなります。」


「いや、長い聖剣はいくつか残しておこう。キミの強力な武器になる。」


「武器いらないし、今どき剣で戦うなんて時代遅れですョ。」


教官を焚き付けて両腕と全部の指、捕虜時代に抜き取られ破損した内臓などをエクスリカバーで治させた。斬撃の毒抜き済みの聖剣が10振り出来たが、山と積まれた聖剣10振りくらい減ってもそれをあざ笑うかのごとく相変わらず見上げるほどの山のままだった。そもそも個別に10振といっても商品価値が低い脇差に短く前差に長い中途半端な10振だったのでそもそも体積比ではどうにもならない。


「これ、売れますね……。でも残りが欲しいのに売っちゃだめですね。」


「この聖剣はキミの私有財産だ。私がどうこう言うことはないが、使用済み聖剣の素材としての特性をみてはどうだろう?」


 やる前から既に成功を確信している。なんなら斬撃さえクリア出来ればそのまま素材として優れた特性なのだから。むしろ使用済みになることでもとの特性がどの程度失われているかを確認するくらいだ。あんまり酷く特性が悪化したなら仕方ないが、返された聖剣を持つ限り充分な強度もあるし、むしろ軽くなったし、持った瞬間に勝利を確信した。あとは数値化と疲労特性の検査だ。


 試験魔道具に使用済み聖剣をセットしオートモードON。日が明けるまでには折り返し耐久試験結果が出る。


 非常に良好な特性だった。あとはこの工程では生産性の問題が残るが全てにおいて最高の素材と言える。しかしこの斬撃抜きの工程が下拵えとして必須なのだが、どうにかならないだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る