第19話 聖剣解析

 三波が選択したゼミの指導教官は退役軍人で片腕がなく、顔も抉られた痕跡がある。残ってる腕の先にある手も指が3本ほど先までない。ちなみに傷病兵としては珍しく足は両方ともある。学内の闘争にも敗れ基本飲んだくれであり月に1回しか来ない。

 こんな指導教官なので戦争を想起させる聖剣をあまりおいておくのもまずい。下手をするとトラウマをほじくり返すことにもなりかねないのだが聖剣は山と積み上がってる。これはトラウマであろうとなんだろうとシラを切るのが良さそうだ。


「まぁ、まだ来ないはず。それまでに加工する方法見つけないとな。」


まずはバーナーで炙ってから急激に冷やして刃先をポロポロと落とす。未知の物質なので何が起こるか分からないので解析装置にかけるのも質量消失しても大事にならない量に絞る。粉末の一つをプレパラートに乗せ、まずはルーペで観察する。


「……。細胞はまだ生きてるんだな……。」


 三波がぼやく。


次に光学顕微鏡で見る。そこにはみるみるうちにもとの金属ガラス化して鋭利な葉を形成してる様子が見えた。


 走査型電子拡大鏡の試料台にのせて真空ポンプを作動させる。するとモニタには見ちゃいやんと字幕付きで胸を隠す仕草をするモンローみたいな女性が映し出された。


三波は頭を抱える。


 次はおんぼろの加速器でエネルギー目一杯にしてアルミニウムイオンを聖剣にぶち込んでみる。何も起こらなかった。そこのアルミニウムイオンが打ち込まれた破片を再度拡大鏡に掛けるとアンタも好きねェと字幕付きで

男が映し出される。


だめだこりゃ。完全に遊ばれてる。


 少なくとも、飛んでいって爆発する斬撃だけはなんとかしたいのでこの構造を解き明かし、無力化しなくてはならない。鋭利さは茎から茎を力点として葉に触れないようにカバーすればいいので別に残っていても構わない。


「本当にどこまでも規格外の怪物ですョ、聖剣ってヤツは……。」


あれやこれやとやっているうちに数週間が経過し、ついに教官がゼミ室に来る日になった。もうシラ切る覚悟はとっくに完了している。煮るなり焼くなり好きにしろ。この大量の危険物をどうにかできる人間なんてそういるもんじゃない。追放できるものならしてみろ。処分に困る聖剣がそこに残ることになるぞ。


「やぁ、三波くん精が出るね。最近は植物由来の素材を研究しとるそうじゃないか。他の生徒もちっとは三波くんの爪の垢でも煎じて飲んだほしいもんだ。」


 そう。演習ゼミ1、演習ゼミ2、卒論指導の三教科は飽く迄も選択科目であり、枠として水金8限目にあるが他の科目と同じ扱いで、他の単位で埋め合わせて卒業するという事もできる。A−Dクラスは履修登録率100%だが、ゼミ室を便利な荷物置き場ロッカールームとして使う方が主で、学部で研究する者は各ゼミ片手で数えるほど。Eクラスでは隔離病棟なのでロッカーとしての利便性も悪く履修登録も少なく、三波のゼミには先輩2人と同期3人が居るはずなのだが一度も顔を合わせてない。


 教官の登場で内心冷や汗がドバドバ出てるが、近況報告として書いていた植物由来素材というのは嘘ではない。その生態は謎に包まれているが、聖剣は植物だ。開き直ってあたかもただの素材であるかのごとく聖剣を取り、近況報告をする。

 その怪しい態度を見抜かれたようで、教官がゆっくり口を開いた。


「三波くん。きっとキミはなにか勘違いをしている。私は剣など全く怖くないし武器を恨んでもいない。武器が人を殺すのではない。人が人を殺すのだ。確かに今のわたしは片腕、指も引きちぎられて先がない。失って以来ずっと生活も不便だ。それでも私の見えない中指は常に立っている。うしなったのはたしかに敵が使った武器によるものだが、武器があるだけでこうなったわけではない。そこに明確な敵意が向けられたあるいは憂き世のしがらみによりそうなったのかいずれにせよ武器が自らの意思で人を害したのではなく、そのような敵意や、しがらみで動く人間は特定の武器が無かったとしても何か別の手段で同じことを実現しただろう。これは人と人の問題なんだ。」


意外と話がわかる教官だった。これなら相談もできる。


「この植物の素材なのですが、振ると斬撃が放出され、その斬撃がぶつかると爆発する性質だけが手に負えなくて厄介なんです。あとは加工が困難なところとか。なんとかなりませんかね。」


そう言うと教官が顔色を変えた。

「飛んで爆発する斬撃だと!するとそれは聖剣なのか?」


ピンポ~ン。

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