第18話 (三波side)並木を仕込む
かなり有望な素材を手に入れたのでコレを使うことができればシャーシ面での問題は解決したも同然だ。急加減速で反物質を含む斬撃が飛んでしまわないかは少し心配ではあるが、それは先程の「使うことができれば」の要件に含まれる。
タイヤについてもおいおい考えなくてはならないが、まずはこの聖剣の加工技術の確立だが、一人では少々心もとない。実加工の大半は並木にやってもらうことになるからそこはやはり、並木に当事者意識を持って自分事として取り組んでもらいたい。
一応は並木も三並レーシング同好会には前向きだし、目下開発中の新素材というのもあるが、彼はマイカーを持っていない。洗い出された要件について頭で考えるのと身体で感じるのは違う。ヤツもクルマを持って自分事として、いやマイカーへフィードバッグ出来るというモチベーションが必要だ。
そうなるとやはりヤツを焚き付けてなんでもいいからマイカーを持たせることが必要だ。ひとつ確実なのはオレがマイカーを買い替えたからお下がりをタダでやるって方法だが、それは最悪のケースの保険だ。それとなく輸送機器の必要を感じてないかを探ってみよう。あんましクルマ買わんのかとか言うとセールスマンみたいで警戒や反発を起こすから飽く迄探りを入れるところまで。
「ヤツには軽トラがいいよな。」
刈り取った聖剣まとめて運ぶのが当面の最重要用途だ。それもミッドシップ2シーター、リミテッドスリップデフ付きのモデルが良いだろう。聖剣刈りが終わったあとも峠での荷重移動、ドリフト、ライン取りの練習にも本番で使う構成MR配置のバランス感覚を叩き込むのに使える。
―――
今日も聖剣刈にいく。
現地には如何にもママさんの足みたいな軽乗用が停めてあった……。
「へへへぇ、買っちゃった。」
並木は満面の笑みを湛え、新しく買った愛車をぽんぽん叩く。せっかくターボエンジンMRレイアウト、リミテッドスリップデフつき2シーターの軽トラを見繕っておいたが徒労に終わった。いや、いいんだ。本人がコレだと思ったクルマに乗ればいい。
「かわいいクルマだな」と三波が褒めると並木はムスっとして
「かわいいじゃなくてカッコイイだろ!」
ピンクの軽ハイトワゴン、ダッシュボードにはぬいぐるみが積もってる。カワイイ以外の褒め言葉はない。
ふむ、FFベースの四駆で過給器とインタークーラー付きか。悪くねぇ。牙を抜かれてはいない。こういう装備が無いとついつい生活の足としてのクルマになってしまう。こういう実用面で無意味な装備は内に秘めた闘争本能の炎を消さないためにも重要だ。
「コイツでガンガン聖剣片付けるぜ。運転したくてウズウズしてるから三往復くらい出来るよ」
目的見失ってはいないのは良いことだが、ピンクのママさんお買い物クルマで聖剣運搬かよ。
「お前らしくないエクステリアにインテリアだなw」
「しょうがないよ。中古で安かったんだもん」
このいかにもなデザインは中古だからそれしかなかったということで別に並木の趣味というわけではないようだ。それなら話は早い。
まずは気が済むまで乗ってもらって、その後気になったところを調整がてらそこの部分の理論上の理想を教えてやる。並木が自分事として一切の妥協無しでそれを作っていくことで最後には全身フルチューンになるはずだ。
でも、もしかしたらこのエクステリアは早急になんとかしたいんじゃないか?いや、本人曰く「カッコいい」らしいからそこは後回しか。
―――
運転したくてウズウズしてる並木は聖剣刈りのほうも絶好調。当初3往復と言ってたがあともう一回っ!、あと一回っ!て言われて結局10往復した。ゼミ室の一角に、聖剣が刺さった丸太が山積みになっている。さすがにこれ以上は指導教官に怒られそうだ。
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