第16話 聖剣むしり
聖剣が生い茂り、通行の邪魔になってる。土だろうが岩だろうが見境なく根を張り、茎は軟鉄のようにしなやかで丈夫で、多肉植物を彷彿とさせるふくよかなのにスラっと細長い葉は蛤刃のようなエッジをしてて軽く擦れるだけで骨まで断ち切る深傷を負うという駆除が困難な厄介な草だった。文字通り殺意が混じった草生える状態だ。静止してくれればまだなんとかなりそうだが風に吹かれて揺れる揺れる。軽いのだろうが触れたら深傷を負う危険な葉だ。
「これ、むしった分も持ち帰っていいの?」並木が確認する。
「もちろんぢゃ。むしってくれるだけでも助かるのに後始末までしてくださるなら大歓迎ぢゃ。」
おい、お前が得意な後始末だってよ……と並木は坂本に目をやるが、坂本はとっくに興味を失ってる。
ともかく草の構造を魔術でスキャンするが、やはり根と茎は一体で強力に結合していて、根は地下深くの鉱脈まで通じてる。通常の力では根こそぎ掘り起こすのは無理だし、茎から切り離して回収するのすら難しそうだ。三波は当てにならない。これに対応できるのはオレか坂本だけだ。しかし坂本も正直あやしい。
「坂本くん。射撃で正確に草の茎だけを射抜けるか?」
「向こうの強度がわかりませんが、やってみます。」
パンパンパンという音とともに草むらがバサッと揺れるが折れてる気配はない。なんということだ。少なくとも普通の装甲より強い。
「これはヤバイね。一人や二人の手に負えるものじゃないね。重機を何台も何台も壊しながら使ってようやくなんとかできるってもんだな。」
並木も頭を抱える。すると三波が、
「ちょっとダメ元でやってみようか……」とガスバーナーを取り出し葉を加熱してみる。熱した場所も赤くなることもなく全く効かない。
「うーむ、もしかしたらと思ったが、焼いてだめなら煮てみるってことでこれではどうだろう……。」と、葉に薬剤を塗って点火する。なんとなく赤熱してるようにも見えるが薬剤が燃焼する火がそう見えているだけのような気もする。
「からの……」と少し赤熱してるかのように見えた聖剣の草にバケツで水をかける。
「ふむ。割れないな……。金属ガラスを形成しているのかとの仮説は否定された!」
「いや、全体が金属ガラスを形成してはいないのかもしれないが、葉のエッヂの部分は三波くんが想定していたように金属ガラスだったみたいだよ。葉の鋭さはかなり和らいだ!」
さっきまで枝で葉をよけようとしたらスパスパ切れていたのが、確かに避けられている。一歩前進したがまだまだ前途多難だ。
「おい、並木。はじめからオレ思ってたんだけどヨ、言っていいか?」
「みなまで言うな。わかってる。でもひとつ懸念してることがあって……。わからないもの分解して反物質出てきたらどうしよう……。」
「極少量でやって魔術解除するときにそっと解除してみたらいい。つまり質量消失して大丈夫な量だけ分解する。もしくはいまたしかにここに安定状態で存在してる聖剣がそれを保持している仕掛けを再現して再結合させるか。」
「そんな極少量に調整出来るかな……。1gでもまずいでしょそれ。」
「まぁ、1gならTNT換算5万トンってとこかな?」
「半径5キロはクレーターになって跡形もなくなるね……。」
「それは最悪のケースだ。まだ出ると限った話でもないし、0.01ミリグラムでも観察には十分だからそれくらいでやろう。」
さっき聖剣の葉を避けるのに使った枝に付着した聖剣の粉末をかき集め、遠隔からもみもみと魔法を放出する。
「分解!再結合!」
パン!と爆音を立て盛大に辺りを抉ってる。放出されたエネルギー的に心配してた反物質説はビンゴだったようだ。
「聖剣は軽く振るだけで斬撃が飛んでいって敵が爆発したりするしヨ、やはり反物質が噛んでるな。」
「正物質のイオンビームを突っ込めば中で反応して割れるんじゃない?」
「それくらい太陽光のもと普段から浴びてるだろう。それに抗う力が掛かってるってことョ。それにゼミ室の加速魔道具は旧型で高エネルギー照射は出来ねえ。MeVの大台に乗らない。二桁KeVだ。なにせ聖剣は生きてて自己修復するし難攻不落であるが故に聖剣と呼ばれてるヤツだからな……。案外、坂本みたいな人間のおめめが¥マークになる性質を利用するのが一番速くこの危ない叢を撤去する近道かもしれないな」
「つまり……?」
「聖剣を作物として収穫させるってことョ」
「危ないじゃん。軽く触れるだけでスパッといっちゃうよ。」
「そんな奴らが怪我しても身から出た錆だ。放っておけ、それよりオメェのそのチート魔法だがヨ、何か阻止出来る物質とか構造物は無いのか。破壊に必要な最小限の対象だけに絞ってぶつけるために。」
「透過して目標座標にピンポイントで作用できる。必要なのはぶつける場所のイメージだけ」
「よし、ゆっくりとイメージしろ。トナーの粉一粒サイズの粒子だ。それが根と茎の境目に入って真ん中にあるイメージだ。そこを分解再結合しろ。」
三波の指導のもと、放った魔法は聖剣を爆破しその場で折れて横に倒れた。成功だ。あとは一本一本丁寧にやっていくだけだ。
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