第15話 (並木side)聖剣

 並木は並木で悩みを抱えていた。画期的な素材を作るのには成功したが、どうやってもパテントが通らないのである。パテントはその目的が技術の独り占めを排除し権利を認める代わりにその技術を書面にして登録する制度なので誰がやっても出来る再現性が要るがもみもみ魔法によって並木には100%再現できるのだが、並木以外誰も作れかった。


「だから、グッと押してカーッて熱を帯びさせた手でまんべんなく優しくなでて、ほわぁぁんと掴んでブチューッって絞れば誰でも作れるんだよ!」

 ダメだこの人。天才だけど他人に説明できないユニークスキル持ちだ。書類仕事が得意な坂本に頼んでパテントの申請書を書かせるが、一番大事なところで感覚的な説明になる。


「そういうところ、誰にでもできないから。証明問題に反例出すか『自明である』しか書かないのと同じで説明になってないのよ。」


並木は試験の証明問題には反例ひとつ書いて終わりのことが多かった。そしてまれに自明であると書いていた。そしていつもテスト成績は赤点だった。


「あれは国語の問題だよね。設問に穴があいてるから反例出来ちゃうし、きっちり条件揃えたら自明になるし、反例回答した場合何が設問に欠けてるかもわかるから書いてるけど」


「それがダメなのよ!出題者は何を答えて欲しがっているかを考えてその通りに答えてあげなさい!」


「忖度してどうするんだ?俺たちは錬金の徒だ。あるのは作れるか作れないかだけだ。オレは作れる。それでいいじゃないか?」


「パテント制度の意味を理解してないわね。」


「その静かな赤ちゃんに履かせてる吸水パンツだろ?」


「◯テントじゃありません。うちはハ◯ンハ〇ースです」


いや、◯テントは赤ちゃん用じゃないと思うのだが。


「じゃあ、太陽から降り注ぐめぐみ……」


「それはおてんと」


「並木さんなら勇者にしか抜けないと言われる聖剣も『グッとやってパパパっと』引き抜いてポイしそうね」


「聖剣なんてものあるのか?あの自己回復が付いた剣と言われてる」


「そこに注目するところが並木さんらしいわね。宮廷行事で使うって王家に引き継がれて来た剣があるらしいわよ。でも誰もみたことないし、そもそも見たものは発狂するとか罰が当たって死ぬとか言われてるわね。」


「どんな剣なのか噂とかそういうのは?」


「長さは八束ほど、鞘から抜くと青白く光ってると言われてるわ」


 それ、発狂したり罰が当たってるんじゃなくて放射線被曝して白血病で死んでないか?


「どういう伝承で誰がどこから抜いたのか知らないか?」


「古代の英雄が八頭竜を倒して自分の刀で斬ろうとしたら竜の中から出てきたって言われてる。これは古文書の表記によくあるぼかした言い方で具体的には川が8つに分岐する場所の山ん中で地中から出土ってことで、だからココらへんの山の中ってことね」

 坂本は地図を広げてある場所を指差す。


―――


自ら光り出す金属とかそういう方面に強い三波を連れて現地に行く。もしも、だったときに適切な判断をできるようにだ。


 川を遡り人里離れた山の奥に突如現れた草原に聖剣が生い茂ってる。そう聖剣が文字通り土から「生えて」いるのだ。表面にはヒカリゴケを纏って光っている。


「ハハハッ。勇者か賢者でないと抜けなくて自己回復もする訳だ。根も生えてやがる。コレは一本取られたましたヨw」

 三波は笑いこけてる。


「うん。見た者が発狂したと言われる理由もわかった。」

 この光景をみてきたと人に説明したら間違いなく狂ってるかクスリやってると思われるだろう。並木は見慣れない光景に呆れつつも現実を受け入れて続ける。

「世界は広いね。そして大地母神はいつもこっちの予想の斜め上をいく。到底敵わないですヨ」


「聖剣だけじゃなくて聖杯も生えてるわよ~!」

坂本が手に何か持って来た。


「菜々子、それ聖杯ちゃう。ウツボカズラや。」


―――


生い茂る鋭い聖剣が繁茂する草原の先には岩がある。その岩にもひときわ立派な聖剣が生えてる。


「あれ、欲しいな~」


 坂本のお目々が¥マークになってる。どうしてこの女は危ないモノに惹かれていくんだ?別にこの国では刀剣の所持は手続きさえ踏めば何ら違法ではないが、たぶんお前の射撃のほうが攻撃力高いだろ。


「いや、やめておいたほうがいい。あれは下の岩と一体だ。それに、あれ誰かの所有物っぽいよ。勝手に抜いちゃだめだよ。」


並木が制止すると、奥の岩の方からじいさんがやってきた。


「代々この山を守ってきた家の者だが、岩とともになら、そしてこの繁茂した聖剣をむしってくれたら譲っていいぞ」


昔、聖剣を抜きに来た勇者が岩から上の部分だけ引き抜いて根っこがのこってる岩とともに持ってけといったのに聖剣だけ持って行ってしまって以来、種の絶滅の危機を感じた聖剣が一気に繁殖してて、今では通り抜ける時も鋭い葉で足切らないように気をつけなきゃいけなく大変困ってるという。茎も葉も丈夫で普通の芝刈り機では刃が立たない上に根っこが残ってるとまた生えてくるという。


説明を聞くとさっきまでおめめが¥マークだった坂本が急に興味を失ってるのがわかった。

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