第14話 三並レーシング同好会
ドンッ!プシュ〜!
モクモクとタイヤは煙を上げ、瀬名を載せた車両はその場でタイヤを失う。回転と同時にその場でグリップを失いタイヤが空転する。動摩擦係数は静止摩擦係数より少ないとはいえゼロでもないだろうになぜこうなるのだろう?
いや、その場で全部擦り切れて気化してしまうのだから空転というより回転と同時にタイヤがもぎ取られたというのが正しいだろう。
「弱ったな。よそのチームのモンスターマシンは1時間に110キログラムの燃料を燃やせるというのに、うちらは一日掛けて10cc燃やすのさえ至難の業だ。」
瀬名は全身に冷や汗ドバドバ流しながら三波にツッコむ。
「どんだけパワーあるんですかこのマシン!」
「ん?とりあえず、エンジン出力が余すとこなく印加されればこの1トンの車を0.1秒でマッハ3に加速する程度のマイルドな仕事率だが。」
「それって加速するだけで飛行機どうしで正面衝突した状態じゃないですか!!死にますよそんなの!!」
三波の頭の中からはすっかりドライバーに掛かる加速というのが抜け落ちていた。
「それもそうだな。走れないんじゃ意味がないよな。なにより、今はタイヤが負けて事なきを得たが、タイヤがなんとかなったあとはシャーシがやられるのも目に見えてる。」
やはりこうなると並木の出番だ。くるおしく身をよじるようにマッハ3で走れるシャーシを作るには素材マニアの並木に頼るしかない。いつも並木に頼りっぱなしだ。いつかツケを返せるようにオレも錬金術頑張らないとな。
「くるおしく身をよじるような走りなんてやめて実用的でラクなヤツにしてください!無理ですこんなの。」
「そんなのクルマじゃないよ。クルマっちゅうもんはな、キレッキレにバカでサイテーで下品に速くなければならねえ。」
「実用的でラクなやつでもバカでサイテーで下品に速い運転は可能です!というか実用的でラクなやつじゃなければそんな運転不可能です。」
「オレはエンジン屋だからボディのことはよくわからねえ、そこら辺は並木に任せようぜ。」
―――
二人で並木のゼミ室に向かうが、ゼミ室が近づくにつれて瀬名の歩くのが見るからに遅くなっている。
「靴底がタレたか?靴屋にピット・インしてくか?」
「三波さん、わかってて言ってるでしょ。あそこ怖いんですって。」
坂本が敵意剥き出しで何かしてくるのだろう。前は銃突き付けてきたので流石にそれはアカンと厳重注意したから、銃突きつけるってことはないだろうけど、そう思い込むの自体がフラグって線もあって相変わらず銃突き付けてるのかもしれない。
並木のいるゼミ室に着いた。隣で瀬名がガクブルしてるが構わずノックする。
「三波くん?」
「そうだよ、三波だよ。」
「本当に三波くんか?」
「瀬名も一緒だ。」
「そこ正確に言ってよ……申告と実体が違うと坂本を刺激するから…。」
さもありなん。
「どうぞ」
許可が出たので入る。
「よぉ」と声を掛けると、
髪を垂らしまるで背後霊のように並木の後ろから坂本がじ~っとこちらを睨みつけている。
「坂本、お前「怖さの総合商社」やな……」
前は突然銃を突き付けて来たし、今回は呪われそうな怨霊みたいな風貌だ。前回はその場で殺されそうな怖さ、今回は取り殺されそうな怖さ。
自動車車体にふさわしい素材がなにかないかと聞いたら、目下開発中のようで、瀬名をドライバーとするレーシング同好会を立ち上げるのには前向きな様子だった。
「団体名は三波の三と並木の並をあわせた三並レーシング同好会でいいヨな?」
「結局ミナミじゃないかというのは置いといてもむっちゃ弱そうな名前だね……。」
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