第13話 光速の貴公子 瀬名孔人


 三波のゼミ室のドアが開き、何やら見慣れないイケメンが飛び込んできた。長身イケメン。スタイル抜群のいわゆる乙女ゲーの王子様、そして乙女ゲー系ラノベでは典型的なヤラレ役キャラの銀髪の立派な男だった。


「ハァハァハァ」息を切らしている。ここはEクラスのゼミ棟だよ。お公家さんの来るところじゃない。


「訳ありの様子だな。まあ座れ。」


 三波はだいたい事情を察した。こいつの顔は覚えてる。


「どうせ、挨拶に行って怖い姐ちゃんに怖い目に遭わされたんだろw」


「ど、どうしてそれを?」


「勘だ。でも当たらずといえども遠からずだろ」


「ピッタリです。」


「ふふふ、思った通りだ。で、要件は何だ?並木への伝言なら任せろ。あの姐ちゃん、並木と俺には喧嘩売ってこねぇ。二人で一回しっかり絞って〆といたからな。」


「ええ、あの日のお礼を言いに来ました。

高価なポーションを規定量よりだいぶ多めに使っていただいたらしくて、あの日を境に何もかもうまくいくようになり容貌も肉体も頭脳もまるで全くの別物になった気分です。」


「まぁそうだろうな。貴重なヒールではあるが高価なものではなかったぞ。」


「えっ!僕に使ってくれたの、あの伝説のヒール治癒瓶なんですか?アラン印の?」


「アラン印かどうかは知らねえが、確かにヒールって言って買ってたぜ。お前さんらが事故るほんの10分くらい前の事だ。二人一組でないと買えないらしくてオレも付き合わされたんだよ」


「ヒールを何だと思ってるんですか!!あの一瓶がどれだけの価値があるのかわかっていってます?それをまるで何か買い物ついでにちょっと買ってたまたま持ってたみたいに。

もう恥ずかしくてこんな粗末な返礼品持っていけないですよ。」


イケメンくんは手に持ってた熨斗つきの手土産を乱暴に机に投げ出した。


「よくわからねぇんだが、ヒールってそんなに高価なものなのか?昼飯にちょっと追加して昼から飲むドリンクみたいな値段で買ったぞ」


「手に入れるべき人のもとにそれを入手するチャンスが垂れてくると言われてます。お金をいくら積んでも必要の無い人のところに渡ることはなく、逆に必要な人のもとにはタダ同然で手に入るとも。きっとお二人は選ばれたのでしょう。」


何その昔話とか説話みたいなアイテムは?


「ところでお互い自己紹介がまだだったな。オレは三波という。専攻はエンジン工学。素材専攻の並木、つまりお前にヒールぶっかけた奴とは同期だ。」


「瀬名孔人です。」


「ア◯ルトン・セナ?」


「よく言われます。そうしてイジられ続けてきました。」


「名誉なことじゃないか。」


「いえ、名前負けしてるという当てつけで言われることが多かったです。そして面接までこぎつけた会社もみんな、何か期待が大きすぎて実体との落差に落胆して。でも通信レースゲームでは全国5位以内に入ってるタイトルが8本あります。」


「ゲームと実物はちょっと違うが、今ならeスポーツとか言ってゲーム上手い人も選手として尊敬されているんだろ?生まれた時代が悪かったな。」


 三波の顔に悪い企みしてる笑みが浮かぶ。こいつは見た目も悪くない。そしてゲームといえどレースの何たるかもわかってる男だ。これは売れる。


「オマエ、俺たちのチームのドライバーになれや。拒否権は無い。俺達が作る最強のマシンで大会を荒らしまくって瀬名旋風を引き起こそうぜ。」

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