第10話 敵の手の内を解析する
坂本菜々子が色々と後ろ暗い立場であることはわかっている。しかし情報通であることは間違いないだろう。錬金のイロハも知っている。そして見殺しにするなという三波の提言によりコイツのためのビキニアーマーを作ってやることにした。
「で、あんましこっちの手の内明かしたくないから、お前が狙われる可能性が高い攻撃にだけ対応させるぞ。あそこの島国の武器はどんなのがある?」
すると坂本は足元に隠してたホルスターから大型拳銃を抜き、弾を……ゲフンゲフン……から取り出し、説明してくれる。
「まずはキノコ弾。着弾とともに先端が裂けて肉体の広範囲をぐちゃぐちょに破壊、飛散させるタイプ。これは装甲には極めて弱く距離や火薬量にもよりますが鉄板で厚さ5ミリもあれば防げます。次に徹甲弾。これは装甲を貫通することに特化した弾。完全に防ぐには鉄板で10センチは必要。そして一番いやらしいのが徹甲キノコ弾。装甲を突き抜けて前からの圧力が抜けた時に裂けて肉体を破壊し飛散させます。」
一つづつ説明してくれたのだが、並木は既に吐きそうだ。なんて気持ち悪いモノを作るんだ。正気とは到底思えない。
「ふむ。とりあえずわかった。鉄板10センチ分の強度があれば防げるのだな?」
とりあえず、着用して違和感がないであろう厚みに形成した試作の衝撃吸収自己回復素材を被せた、人体と似た特性を持つゼリーでできたマネキンを撃ってもらう。高速度撮影魔道具とマネキン内部に厚さ1ミリの鉄板を仕込む。これはどの程度吸収できるかの試験と改善点を洗い出すためのモノだ。あんまし完全に破壊されても試作段階で完全に防げてもいけないのだ。改善点が数字で出る範囲が好ましい。
パン! サイレンサーがついているのにもかかわらずものすごい衝撃波が広がる。マネキンが倒れた。実験は成功だ。倒れもしないのは命中してないし、跡形もなく飛び散ったりしたらデータが取れない。まあそのときの保険としての高速度撮影魔道具なのだが。
倒れたマネキンを見ると傷一つついてない。どういうこっちゃ?ただ倒れただけ。
これ、衝撃波で倒れた可能性が一番高い。つまり命中してないのに倒れた。
「すまん、坂本くん。実験に使える弾はあといくつある?」
「お望みならそれぞれ400発ケースが100箱ありますよ〜」
「てめぇ戦争でもおっぱじめる気か?なにそんな危ないもん大量に持ち込んでるんだよ!」
「ところでこれ以上実験する必要なんてあるんですか?素晴らしい強度です。その防具でお願いします。バッチリですよ。」
「いや、これ衝撃波で倒れただけで弾当たってないから……。」
「私がこの距離で外すわけないじゃないですか。」
やはり女スパイで特殊訓練でも受けているんだろう。疑惑は確信に変わった。
「申し訳ないが、猿も木から落ちると言ってだな。今回ばかしは当たってない。」
「当たりました。そして弾は勢いを失いマネキンのおいてあった場所に静止後そのまま真っすぐ重力に引かれるまま落ちました。」
そんなバカな?そんな速度見えるの?
「坂本くん冗談はやめたまえ。閃光弾でもない弾丸が目に見える速度な訳がないだろう。」
「着弾させた場所に突如弾丸が膨らんで静止して、それが落ちたんですよ。飛んでいくのは見えませんでしたが着弾した場所に花びら状に開いた板が静止して突如現れたのがそこからただ下に落ちたのを見たんです。」
言う通りマネキンを置いた場所に広がった鉛板が見つかった。
高速度撮影魔道具でも確認したが確かに当たり弾は弾け停止し落ちていた。
「これは……それでも失敗かもしれんな。」
「どうしてですか?」
「運動エネルギーを吸収することには成功した。しかしそれをビキニアーマー内部で消費しきれずに吹っ飛んだ。君がこのビキニアーマーを身に着けていたら貫通されることはないのかもしれないが、ぶっ飛ばされることには変わりない。」
「身体の中をぐちゃぐちゃに破壊して貫通されるのとぶっ飛ぶだけじゃ全然違いますよ。並木さん大好き。」
こら色仕掛けしても無駄だ。これは錬金術師としての誇りをかけた孤独な敵のいない闘いなんだ。理想はあたってもカンカンと跳ね返す素材だ。吸収にこだわる必要は必ずしもない。破損箇所の焼入れ焼き戻しに自己修復構造が使うエネルギー以上が入力されたら戻すという構造を作り込まないとならない。
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