第9話 覚えてますか?忘れました。関わらないでください


 坂本菜々子が魔術学院に転校してきて、さっそく並木に迫って来るなり 「わたしのこと覚えていますか?」とグイグイ押してくる。


 並木は怯えながらしどろもどろに答える。

「知りません。知ってたとしても忘れました。近寄らないでください。」

 こいつは東方のとある国でABCとある大量破壊兵器のうち最も凶悪とされるAタイプの兵器の開発リーダーを務め、3つの国籍を持ち二重スパイの可能性があり、弱小後進国といえど決して小さくはない島国の当局から命を狙われている曰く付きの女である。こんなのと友達付き合いしてたら流れ弾や巻き添えがありそうで命がいくつあっても足りない。絶対に関わり合いたくない。こっち来んなシッシ。くわばらくわばら。しかも作者的にはいつでもどこでも心痛むことなく残虐バトルシーン書ける美味しいことこの上ないご都合主義なキャラじゃないか。この呪いから逃げる方法は無いのか?


 「目と目があったときこの人こそ私をこの地獄から救ってくださる方だと確信しました。」


「勝手に目と目で通じ合わないでください!おい、三波〜!なんとかしてくれよ〜!。」

三波に助けを求める。


「いいじゃねぇか、色男!オレがモテない事知ってて見せつけてるのか?」

三波はニヤニヤ笑いながら並木を突き放す。


「てめぇ、この女のヤバさ知ってて言ってるのかよ!」


「知らねえな。オレにはいいオンナに見えてるぜ。オメェが要らねえならオレが代わりたいくらいだ。しかし人間はモノじゃないからな本人の意志ってもんがある。」


 そう言われると、正当防衛の緊急避難とはいえ人体を物質としてみなして魔術で分解再結合して爆破した記憶がフラッシュバックし罪悪感から並木が頭を抱える。確かにああしなければ自分はここに居ない。山で死体となって今頃肉体は鳥とか動物に食われ残骸に虫が涌いていた頃だろう。自分が危険に晒されたからといって結果として5人の生命を奪ったのだ。

 そしてこの女の近くにいる限りその人数は今後いくらでも増えていく。東方の島国の軍人の生命の価値は恐ろしく安く扱われている。マシーンのように任務遂行に向けてまっすぐに行動し、失敗したら簡単に自決するように薬漬けにされて洗脳されている。対話して平和裏にこっち側に寝返らせられる種類の人間ではないのだ。


「かと言って見殺しにするわけにも行かんだろ。コイツほっとけば油断した隙にきっと消されるぜ、並木、俺たちは戦士ではない。錬金の徒だろ?戦いで守るのは俺たちにすることではない。こういうとき錬金術師ならどうする?考えろ!お前こそが天才だ!」


「求めるのは絶対的な強さ。どれだけの攻撃を受けてもものともせず、何千何万回砲火を浴びてもしなやかに受け流しその破壊的エネルギーさえも利用して自己修復を自動的に行う天然の要塞、それを身体に纏えるくらい小型軽量化して決して怪我をせず、かつ着たままで飲食排泄ができ、発汗によって不衛生にならず快適に過ごせるアーマーを作る。」


滔々と並木はビジョンを語りだす。それを作れるということではない。錬金術師としてこの問題を解決する答えを現実の制約を無視してただ出してみるだけである。


「おう、その意気だ同志。オレもそのパワーサプライ部分については協力するぜ」

三波は既に何か具体的な実装を考えついてるようだった。


「だめだよ、コイツに攻撃力を与えたら。また人死んじゃうよ。そもそもどこのスパイかさえわからない謎の女だぞ。倒せないだけでも大変なのにそれがパワードメイルなんかになったら手に負えないよ」


「そうか?この女もうお前にゾッコンだぜ。お前が死ねといえばたぶんそれだけで死ぬぞ」

三波は甘い。海千山千のくのいちにチョロいヤツと思われてるぞ。コイツは3カ国を手玉に取って渡り歩く大物スパイだぜ。色仕掛すら手段の一つにすぎない。与えすぎず関わらず。むしろ安全は確保するから静かにしててくれと武器を取り上げて邪神のように封印するつもりだが、生身の身体を使った女の武器までは奪えない。

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