第8話 (並木side)ヒール解析

 話半分に聞いててもし本当だったらめっけもんくらいで入手したヒールが目の前で確かに効いた。猛烈に嘘くさい効き方だったが確かに効いた。この目ではっきり見た。夢で見たのではない。なんなら三波も一緒に見た。残りをなくさないように持ち帰り、ゼミ室で解析する。

 任意の化学変化をなんの準備もなく魔力のみの消費で起こせる歩くケミカルラボとも言えるチート魔術の持ち主である並木だが、ヒールの組成は未知であり何が起こるか分からなかったので何かあったときに措置できるように研究棟の奥にあるゼミ室での解析とした。

 並木の魔術は魔力の軽微な消費でばかみたいなポテンシャルエナジーを物質に与えてしまうことがある。下手に分解してみたら反物質が出てきました魔力による反応停止を解除した途端大爆発しますなんて事になりかねない。


「分解!反応停止!」


そう。もちろん、この、鼻を伸ばした顔つきにして、胸付近に手を上げて乳をもみもみするような魔力発動がものすごくカッコ悪いし変態みたいだというのも研究室に持ち帰って解析する大きな理由のひとつだ。


ビーカーに取り分けられたヒールの成分は、まるっきり普通のビールと同じ組成、比率であった。


しかも、普通のビールを解析するのよりもはるかに魔力消費が少ない。つまり結びつきがより弱い元素に近く単純な、そして反応するポテンシャルを残した化合してない混合液体であるということだ。


「うーむ……。ビールとまるっきり同じなんだよな。しかしダイヤモンドと石炭とカーボンファイバーが同じ組成ということもあるし……やはり「見て」みるか。」


おもむろに並木はゼミ室にある走査型電子拡大鏡、通称SEX(Scanning Electron eXpander)の試料台ベッドにヒールを一滴垂らして、気化しないようにプレパラートで保護し真空ポンプを作動させる。この魔道具はテレビの内部のように真空中を飛ぶ電子線を偏向コイルで走査しながら試料に当てて反射する電子を検出し、やはり同じ場所を同期して走査してる電子線の強さを変調することで対応する座標の形状を画面に写し出すという研究用魔道具である。


魔道具の丸い蛍光画面に溢れんばかりのうさんくさいおっさんの顔が映し出される。走査の反応で真空ポンプの動作うねりで音が再生される。また、映し出される顔も動き出し中指立ててる。


「ガッハッハ!引っかかったなバーカ、バーカ!エロ画像なんかここにはねぇよw 何みたいんだよwwww〜草生えるwwwww」


なんだ?!この現象は?どうやってこんな結果になるように仕込んだんだ?!しかも言ってることとかやってることが幼稚で程度低っ!。むしろ頭悪って感じしか受けない……。


そう。この装置は拡大鏡であってビデオ再生装置でもテレビでもない。最高精度の観測装置すらジャックする異次元魔導師(しかも、そのトンデモ技術でバカで幼稚なメッセージを上映する)の存在に少しムッとしていると、教授が入ってきた。


「おっ、キミもそれを手に入れたか。アラン印のスーパーエリクサー。通称「ヒール」ってヤツだな。」


教授がとっくに先に試してたようだ。


「ポーションは数多あるがアラン印の通称「ヒール」はその効力においてアタマひとついや、ひとつじゃないなやっつぐらい飛び抜けてる最高級ポーションだ。これを自分で作るようになるのがすべてのポーション職人の目標といっていい。」


「しかも、観測装置の裏を掻くような悪戯まで仕込んでいるんですよね。何者ですかこの人。」


「うむ。諸説あるが、これはニセモノが流通したときに本物を区別するための原子透かしだというのが定説ぢゃ。この表示が現れるヒールは本物で、もし仮にこの表示まで偽装できる技術があるならば、その職人にとってエリクサーを作るこもなど造作もないチョロい事だということでもある。儂でもどうやったらこれを作れるか皆目見当もつかない。」

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