第4話 (三波side)同位体魔石

 「ほほう、 6Nシックスナイン以上の純度ですヨ。コイツはスゲェや」


 三波は鉛ガラス越しに青白く光る魔石の向きを回転操作し変わる光を観測していた。


「こんな純度にするためにどんだけ精製したんですかね。ご苦労なこった。そうやって作るモンじゃなんですョってのに。間違えた情報にまっすぐ投資しちゃうから弱い軍Weak forceって言われちゃうんですヨ。強い相互作用使って自ら位置決めする循環に落とし込まないと作れませんヨ。情弱に刃物持たしちゃいけねえ。お天道様は見てるモンだ。」


「でも流石にこの純度ならウソ製法のままで別のモンができちゃうかもしれんね。嘘から出たまことってやつヨ」


 シックスナインというのは、99.9999%の純度のことだ。安定した物質なら11Nという純度もあるが、この光る魔石は置いてるそばから確率的に崩壊して瘴気に変わって結晶から逃げていったり、結晶の他の原子と化合したりして結晶をボロボロにしていく。それらが不純物として魔石の中に残るのでそうなってないシックスナインというのは驚異的な純度なのである。いわゆる「半減期」というのは半分が瘴気に変わるのに掛かる時間であり、崩壊は確率的に発生するのでいったん100%にしてもすぐに4Nくらいまでは落ちるのが同位体魔石の宿命である。


 三波の顔が歪む。こんな誰にもメリットのないくだらないものを生成するためにやらずボッタクリの重税に苦しむ某国住民への同情を禁じ得ない。


 ひどく残酷に歪んだ笑みを噛み殺しつつ、三波は研究室から伝送同期型ジャーゴンファイルに暗号にして某国政府が純度シックスナインの同位体魔石を既に精製している事を書き込む。暗号化により官能小説のような体裁をとっているが読む人が読めば意味は完全に伝わる。この同期型ファイルは某国の宗主国政府中枢にも読者が居て総合的に一番いいタイミングで生成物を賊どもから取り上げに行くだろう。これでこの地域も安泰だ。

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