第3話 反動勢力の残党……はこっちの方だった。

 「あ、あの……。、助けてくださってありがとうございます。」


「助けたつもりはないんだけどな…。」

 並木は身に降りかかる理不尽に対抗しただけであって誰かを助けるとかそういうつもりはまったくない。

 山歩きしてたらカチカチ山のたぬきみたいなババァが火だるまになって駆け寄ってきて赤ちゃん託してくるわ、いきなり軍隊に襲われるわ災難としか言いようがない。

 しかし、それに対抗できたのは流石は魔力測定で水晶を還元してシリコンを経てシリコーン樹脂にして、おっぱいフィギュアをモミモミしたという(悪い意味での)伝説の天才学生だというのはあった。


「よう並木、お前もここ来てたんだな!」また割り込みが入った。魔術学院の悪友三波である。コイツはすごいヤツだ。入学の魔力測定では平民組としては驚異の199点。貴族組の最高得点を余裕のダブルスコアでなんの小細工も無くまっすぐに蹴落としたバケモノだ。

 その後もE組にいながらテストは常に2位以下を大きく突き放してトップを独走している。実力によるクラス分けという建前のE組のアイデンティティを根本から揺るがしている。いや、あえて言おう。三波がEクラスに入れられてるのは身分が平民であるから以外になにもない。


「み、三波くん。どうしてここに?」


「あぁん? 同位体魔石を運ぶ定期便ABC123便が無防備に積荷散らかしてるなんて話聞いたら来ないわけ無いですヨ。研究の材料に拾い集めにきましたヨ」


「ど、同位体魔石?なんだそれ」


 聞き慣れない言葉が出てきたので教えてもらおうと聞くと、


「あまり気にないで変質しやすい魔石くらいにゆる~く覚えておけばいいんですヨ。それではまた会おう、さらばだアハハハ」

 と言って三波は立ち去ってしまった。


 何なんだろうあの人。間違いなくあの人もマッドサイエンティストなんだけど、自分もおっぱいモミモミパフォーマンスをしてしまった以上こちらには彼を奇人だ変人だと言う権利はない。向こうはどこまでもまっすぐに優秀、こっちは反則ちゃぶ台返しのインチキ野郎だ。


さて、怪我人のおばちゃんの事情を聞くとするか。


「さきほどのお方がおっしゃった通り、この定期便は同位体魔石を積んでました。それが敵国条項に引っかかってしまったのでしょう。進駐軍の高射砲で撃墜されました。そして捕虜になって魔石について知っていて喋ってしまいうる乗客を始末に来たのが先程の兵士たちです。」


 逆にあなたどうしてそんなに詳しいの?そしてそんなことどこの馬の骨かもわからないオレに言っていいの?


「申し遅れました。わたくし、坂本菜々子と申します。同位体魔石を利用した報復兵器開発プロジェクトチームのリーダーでした。この国と宗主国の間では表向き逆らいませんということになってますが、実は水面下で政府とは関係ないという顔をしてテロを仕掛けては独立を目指してきていたのです。そこに政府の公式な支援はないことになっており、バレそうになったら消すという同意のもと迂回して資金を得て開発してたのです。まさか本当に消される事になるなんて考えてもいませんでした。」


なんて迷惑な旧勢力残党……。


「まぁ、俺たちゃここの国のモンじゃないからそっち方面の話には疎いんだが、とりあえず人命は自分のも相手のも大事にしような。」

 並木は言っていて、つい先程の自分が直接の原因となった兵士たちの自決を思い出してウワーッとわめきそうになるのをグッとこらえる。


「はい。子供を授かってこの仕事に疑問を持ち始めていたところでのこの大惨事です。この国ではもうだめなので、へ連れて行ってください。なんでもします。報酬も何もいりません。奴隷だと思っていただければ。」


 さて、そうはいっても、この国からどうやって彼女らを出せばいいのだ?空港のゲートも当局が全部見張っている……。


「ここの政府が関与しない出国ルートが2つあります。私が顔パスでそこを経由して出国できます。」


 聞いてみると、ひとつはついて行ったらに拉致されて主体チュチェ性がつきそうなルート、もうひとつはこいつ自身が二重スパイだったんじゃないの?と思わせるいわゆる進駐軍の基地からという危なっかしいルートだった。これ絶対に関わり合い持ちたくないやつ。


「お互い、ここでは会わなかった。オレは素材集めして何事もなく帰った。お前は敵の目をすり抜けエージェントと合流して基地に戻った。それでいいだろ。俺を要らんことに巻き込まないでくれ。」


 並木は、ここで別れようと提案する。


「このご恩は一生忘れませんから。必ず返しますから。」


「頼む、お願いだから忘れてくれ。ここでは何もなかった。俺はここで誰とも会ってもいないし、誰も殺してないし、誰も助けてもいない!」並木は事実と異なる願望を絶叫した。

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