第5話 学生街へ繰り出す
三波と並木は同じEクラス平民組で切磋琢磨する良きライバルだ。
三波は、錬金術でこそ並木に敵わないけれども街遊びでは自分のほうが勝っていると思っている。
他方、並木もまた錬金術では三波の後塵を拝してるのを認めざるを得ないけれども歌って踊れる錬金術師として総合点では僅差で自分のほうが勝っていると思っている。
三波は既に「三波サイクル」と称するエンジン熱力学サイクルに関するパテントを持っている。パテントという制度自体怪しげではあるが、三波の実力から察するに怪しげな制度すら有無を言わせない圧倒的な実力で世の中の旧世代の製品を一掃するような画期的な発明に違いない。貴族の御曹司が見下すためだけにあったEクラスでありながらも非の打ち所のない答案でいつも学年トップなのだから。
「今月の
三波はいわゆる天才のご多分に漏れず、破天荒な性格だ。奨学金だと言ってるのにまるで給料日のノリ。なんちゃって錬金術師の
そして学生街に繰り出してふたりともまっすぐに魔導書店へと直行する。
「俺たち結局ここだよな……。」
「だな……。」
魔術の徒たるもの、学びも魔術、遊びも魔術、寝ても起きても魔術になってしまう、本の虫ならぬ魔術の虫なのだった。
ここの魔導書店の店員には恐ろしいおばさんがいる。あまり長く立ち読みしてるとハタキをかけに来るのだが、このおばさん、錬金術師モノの元祖とされる大錬金術師様とともにドラゴンスレイヤーの称号持ちで、竜にトドメを刺した時の装備がこの書店のエプロンで得物はこのハタキ、つまりこの格好のまま片手間の野暮用で出かけて竜退治して帰ってきたと噂されている。(ついでに雄叫びの声は「いい加減にして!」だとのこと)
この店は三波と相性が良くない。いや並木が過剰適応していると言ったほうが良いかもしれない。並木は片っ端から目次だけサササと目を通して、気になった本も気になった目次の一項目分ずつ取っては返してで、一冊を手に取っている時間が短く、最後まで買うか迷ってるように見えて、一回来たら確実に3冊分は丸暗記して帰る。
他方、三波は一冊手に取るとそれなりに早く読むのだがおばさんに見つかってハタキかけられる。ただし一人で来たらの場合であり
、並木と一緒に来た場合、店員はあっちこっちに追いかけ回さざるを得ず、三波はお目こぼしになる確率がぐんとあがる。だからふたりで街に出る日の一軒目はだいたいここなのだ。
―――
ハタキをかいくぐり、申し訳程度に各自一冊の書籍を購入して店を後にする。
少し歩いたところで並木が寄っていきたい店があると言い出した。
「オレ、ちょっと寄りたいところがあってよ。いいかな?」
三波は特にあてはないので付き合うことにした。
「じゃあその次はつきあってくれ。どこだ?」
「ここだ。」
どこだと言って間髪入れずにココだと並木が言ったところにはいかがわしい雰囲気を醸し出しているキャバレーがあった。
「昼間からこんなところかよ」
「夜にこんな高い店来れないよ。居酒屋はだいたい昼にリーズナブルなランチがある。」
「なんか事情があるんだな?女か?」
「ある女性がきっかけであることは確かだが、その女性のためではなく、次に似たシチュエーションになったとき間違うことがないようにだ。」
ガラガラとドアを開いて店内に入る。慣れてるようにカウンターで注文する。
「日替わりランチふたつとヒール中瓶ひとつ。グラス2つ。」
黄色と白のプラスチック食券2枚と燦然と黄金に輝く札1枚を受け取り、席についてテーブルの隅に広げる。
三波が何を頼むかの確認もしないのか?と呆気にとられていると、
「すまん。ここはオレのおごりにするから付き合ってくれ。」と並木が手を合わす。
しばらくすると座席に、料理と未開栓の中瓶ひとつとグラスビールが2つ運ばれてきた。
いや、グラスビールじゃなくて取り分けるためのグラスだと店員を呼び止めようとすると並木が止める。
「これであってる。このヒール中瓶を購入するにはこの符丁で注文しないと買えないんだ。そしてこれが欲しかったんだ。」
そう言うと、出てきたヒール中瓶を鞄にしまう。
店で早めの昼食を済ませて、三波のお目当ての店へと向かう。
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