ロストスターズ

虹乃ノラン

Lost Stars

 昨日、ぼくはライオンが捕らえた鹿にキスをするのを見たよ。サバンナ? いやもちろん、アニマルプラネットティーヴィーでだよ。


 昔飼っていた猫のフィーヴィーが、捕まえたイモリを愛しそうに舐めていたよ。そして最後の最後まで食べた後に、とても満たされた表情をして、窓際で眠っていたんだ。


 恍惚の表情にみえたよ。こんなことをいうと、君は大袈裟だっていうかもしれないけれどね。


 食べることと躰を重ねることは、似てるってよくいうだろ? 君は以前いっていたよね。ぼくを取り込んでしまいたいって。その境界線を奪い去ってしまいたいって。


 体と体を隔てる、なにかしらの細胞が邪魔だって。こんなものいらない、取り込んでしまいたいって。


 ぼくはとても君を愛してた。君がいうことはちょっと気味がわるくて、そんなことをいいながら泣くから、なんで泣くんだろうって、痛いのかな、やめてほしいのかなって。

 でもどうしていいかわからないけど、君が求めることはどこまでも底がないように思えた。


 ぼくはすこし恐ろしかった。君はぼくを取り込みたいといった。そしてぼくは、自分が君に取り込まれていきそうなことをひしひしと感じていた。


 君は、躰のなかに星があるといった。爆発する前の星のようだといった。ビッグバンだといった。あたしは、もうすこししたら弾けてしまうと。そして泣いた。よくわからなかった。


 ぼくは、君にあやまらなくてはいけない。君はぼくをきっと食べたかったんだろうと思うんだ。


 そうじゃないと君は繰り返したけれど、ぼくはいつまでも君を満たせないことをこの躰をもって知っていた。


 君は満たされない、いつまでも。ぼくは逃げた。


 満たしたかったけれど、とりこまれて融合して君と永遠に生きる勇気はなかったんだ。


 だからごめん。君はきっといつかその瞳に映る星を失う。それはきっと君が弾けて、宇宙になったそのときだ。


 ぼくは遠くから、それを信じてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る