畑で出会った猫たち。

ふみやおさむ

畑で出会った猫たち。

 畑に行くとたまに猫と出くわす。でも、たいていはお互いに第一印象が最悪で、私は突然出くわした黒い影に「わっ」と大声で驚き、猫はその声に驚いて脱兎だっとのごとく逃げ出すなんてことがほとんどだ。


 一度だが、畑の土と堆肥たいひや肥料を混ぜ、寝かせるため小さな山にしていたところに猫がちょこんと座っていた。何をやってるんだと遠くから見ていたら、突然震えだしたので思わず「〇〇〇かぁ……」とあきれたところ、気付かれて逃げられたこともあった。

 当たり前と言えば当たり前で、猫もリラックスしていたところに急に人間がいたとわかったら逃げ出すし、私もせっかく汗をかいて混ぜた土にそんなものを混ぜてほしくはない。

 その猫とはそれっきりではなく、二・三か月に一度くらい出会うのだが、出会いかたが悪く、いつものように私は突然出くわした猫に驚き、その声に猫が驚いて逃げるということばかりである。


 寒い日と暑い日に割と多いのだが、停めていた車の近くで猫が丸まっていたり伸びていたりすることがあって、そういう時は逃げ出すことはあまりない。こちらが気付かずに普段通りのスピードで近づかない限りは。

 ゆっくり近づいてゆっくりしゃがみ込み、右手で軽く握りこぶしを作ってそっと猫の前に差し出すと、前足を乗せようとする。そこでさっと引いてかわしてやると猫がむきになる。

 どうにかして私の右手を叩こうとするが叩けない。左手は動かしていないのでそっちを叩こうと思えばいくらでも叩けるのだが、そうしないのは猫のほうでもきっとわかっているのだろう。

 そうやって二・三分ほど私の休憩に付き合って貰ったあと、頭を撫でて前足にそっと触る。たまに爪を立てることもあるが、引っ掻こうとはしないので猫のほうでもきっとわかっていると信じたい。

 前足をほんのかすかな力でトントンと(BPM40-60くらいで)叩く(というより触れる)と目をつぶる。しばらく続けていると眠りだす。そうしたら私はそっと離れる。



 猫も私もきまぐれだから、毎回毎回やっているわけじゃない。特にここ数年の夏は暑さが厳しく車の近くで伸びどころか無防備にもだらしなく腹を見せて、ぐでーっとなっている。この気温とこの状態で遊んでもらうのはいくらなんでもかわいそうだし、かといって霧吹きか何かで水をかけてやっていいのかわからない。

 仕方ないので、暑いよねと声だけ掛けてさっさと用を済ませて離れる。

 今年の夏はそんなに暑くなければよいのだけど。

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