第8話 新たなそっくりさん
先ほどの夕霧の悲鳴に負けず劣らず大きさの、なんとも武骨そうな男の人の叫び声が外から聞こえてきた。
そしてその声と同時に、まるで地響きを伴うようなドタドタという重い足音が近づいてきた。
ボクと夕霧は顔を見合わせた。そして腰が抜けてペタリと座り込んだ夕霧が、
「い、いけません! あぁ、夕映様! 会って間もなくでこのような懇願の仕方は妙かもしれませんが、一生のお願いでございます!」
半泣きのような状態の上目遣いで言った。
「な、なに?」
「どうか、私を夕映様のお身体でお隠しいただけませんか? 先ほどのことで腰が抜けてしまい、動けなくなってしまいまして……」
「じゃあボクが手を貸してあげるよ」
「で、ですからっ、そのぅ……」
そんなボク達の押し問答の間にも足音はどんどん近づいてくる。
「お願いでございますっ! どうかお聞きわけ願いませんかっ?!」
「だから手を貸してあげるって。さ、手を出して」
「ですからっ!!」
身体を縮め、赤らめた顔を隠すように口元に両手を押し当てながら、夕霧がぼそぼそと答えた。
「腰を抜かしたときに……そのぅ……す、すこし……そのぉ……」
なるほど……おそらく悲鳴を上げたときに少しちびっちゃったのだろう。ということは、そこまで驚かせてしまったことだし、ここは夕霧の言う事を聞いてあげなきゃいけないよね。
「うん、わかったよ。それでどうすればいいのかな?」
ボクの言葉に夕霧の顔がぱぁっと輝いたように見えた。
「で、では私の前にまずお座りくださいませ」
足音がかなり近づいてきた。これは急がないとマズイ。ボクは急いで夕霧の前に移動しようとした。でも――それがいけなかった。
「うわっと?!」
慣れない着物姿での足運びに思わずボクはつまずいてしまったのだ。そしてつまずいた先には、
「あぁ……世は無情でございますぅ……」
と達観したような表情の夕霧の顔があった。
ボクと夕霧が抱き合うようにして倒れこむのと、足音がこの部屋にたどり着くのは同時だった。
「おぉ!! 今の物音から察するに、この離れに狼藉者が入り込んでおることは必至と言えようぞ!!」
大声と足音がすだれの前までやってきた。ヤバい。これは本当にヤバい。
「されど!! この信盛の目の黒いうちは狼藉者など一瞬にして切り捨てて見せましょうぞ!! さぁ、覚悟いたすがよい!!」
その言葉が終わると同時にすだれが持ち上げられ――――。
「あっ!!」
「あぅ……」
「むぅ?!」
三者三様のリアクションと声が響いた。でも、驚きが大きかったのは間違いなくボクが一番だったと断言できるね。
なぜなら信盛と名乗った、目の前のすだれをあげた男の人は……信也そっくりだったんだから。
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