第17話 妙薬と魔法技術

―― あらすじ ――


光りました。


―――――――――


 魔物の大群による襲撃から数日が経ち、お祝いムードだった騎士団の空気も普段とあまり変わらない程度に落ち着いてきた。

 魔物との戦いの時、俺達が光ったことについてはトトキが傷を治す為に飲んだ薬が原因だろうということで大事になることなく終わった。


「それで…あの場では治しきれない怪我だったと思うんだが。何を使ったんだ?」

「あ~…ほら、賊からの押収品の中にあった…回復薬よりちょっとキラキラしてた…」

「転換の妙薬か…」

「そう、それ!たしか上級のやつより回復するんだよね?」

「正確には人が作れるといわれている最上級の回復薬だな。ただ妙薬のほうは持続するから…」


 転換の妙薬か…昔にいた薬師――過去に女神が知識を広めるために成りすましていた姿の一つ――が広めた薬の一つだな。

 悪用されないように色々と条件付きではあるが性別を変化させる効果の妙薬で、体を作り変える効果の関係で欠損した部位すら再生させるほどの回復力がある。

 同性のパートナーがいるとかでもない限りは性別の転換は起きないし、一度使うと耐性ができて効果が出なくなるらしいが…。


「体のほうは特に問題はないのか?」

「ん、特に問題は起きてないかな?違和感は少しあるけど…検査でも問題は無いって言われたし大丈夫だよ」

「そうか。それならいいんだけどな」


 問題ないとは言っているが…俺の目の辺りにあったはずの頭頂部が、今は顎の辺りにあるし…気のせいじゃなければ身長が縮んでいる。

 まぁ…本人が問題ないって言ってる以上は俺から何か言うのは違うし、悩んでるようだったら相談に乗るくらいで様子を見ていることにしようか。


「お、来たか。魔物相手に大立ち回りをした期待の訓練生ペア!」

「ルモワさん、おはようございます」

「おはようございます、先輩。あんまりからかわないでくださいって言ってるじゃないですか~」

「隊長達もだが本気で期待してるんだぞ?正規の入団の時が楽しみだーってな?」


 朝の訓練をこなす為に訓練場に来た俺達に話しかけてきたのは先輩騎士のルモワさんだ。

 訓練生になってすぐに任務の同行許可が出たことで話題になっていた俺達だが、魔物の群れとの戦いで期待以上の戦果を挙げたとしてさらに話題になっていた。

 それだけでなく俺とトトキの連携が熟年の夫婦のようだと誰かが言ったことで熟年夫婦と陰で呼ばれていたりするらしい。

 トトキが転換の妙薬を飲んで回復だけでなく転換の効果も出ている可能性がある今はちょっと笑えない呼ばれ方だ…。


 翌日以降も特に問題もなく先輩方に揶揄われつつも訓練をこなすだけの日々が続いた…トトキの身長がさらに縮んで体型まで変わり始めた事以外は。

 本人は至って平静だし、問題視している様子もないので…特に俺から何かを言うことは無かった。

 身長や体型の変化による動きのズレなどは先輩の女性騎士と話して調整しているようで、俺と訓練する時には何事もないように振舞っている。


「みなさん、新たな任務が発令されました。都市の南西方面に小規模な魔物の群が現れ都市へと徐々に接近しているようです」


 小規模ではあるものの都市へ接近しつつあるということで討伐の命令が下ったようだ。

 今回は以前の魔物との戦闘でと実力が認められた為、俺達は正規の騎士と同じ扱いとなりマリエスタ隊に仮の隊員として任務に参加することになった。


「以上が任務の説明となります。出動は今から1時間後です。訓練生のお二人も問題はないと思いますが気を付けて任務にあたるようにしてくださいね」

「「了解!」」

「…トトキは油断して大怪我したからな。特に気を付けろよ」

「さ、さすがにあれだけのことがあればもう油断はしないよ…」


 冗談を言い合いつつもぬかりなく準備を進めた俺達は数日振りに都市の外へとやってきた。

 まぁ特に代わり映えしない見慣れた景色だ。

 そして今回の任務で向かうのは前回と少し違う場所で、森の中までは進まずに手前の荒野で魔物と戦うことになる。

 森の中と違い見晴らしのいい開けた場所なので奇襲に対しての警戒はしなくてもいいが…障害物が少ない分、戦闘時に魔物の動きにより気を付けなくてはいけない。

 特に今回戦うことになる猪や牛系に分類される魔物は突進の邪魔になるものが無いために突進にスピードが乗ることで威力が上がるだけでなく…魔法で防護膜が張られる影響ですれ違いざまに切り付けてもダメージが通りにくくヒットアンドアウェイが繰り返され非常に厄介な敵となる。


「あいつらって意外と小回りが利くから広いとこだとめんどくせーんだよなぁ」

「そうそう!魔法で障害物を作っても回避されるのよねー…」

「だけど、カウトルートの肉ってうまいんだよな」

「そういやあカウトルートも混じってたな」


 カウトルートは牛型の魔物で部位によっては高値で取引される食べられる魔物だ。

 とはいえ魔物は自然の動物が元になって生まれた存在の為、毒を持っていない限りはどの魔物も食べられるが…味は保証しない。

 話は逸れたがカウトルートは肉が非常に美味しいために好まれて食されている。


「突進は俺が土壁で止めるので止めをお願いしていいですか?」

「土壁って…模擬戦の時に使った?」

「そうです。あの土壁なら防護膜を散らせるので」

「そうか…そんな効果もあったな…よかったら、あとで教えてくれないか?」

「構いませんよ。隠してるわけではないですし」

「そうか、ありがとな。結構いろんなことができそうで気になってたんだよな…」


 魔法に含まれる魔力を乱して散らすことで弱らせ、モノによっては魔法そのものを消すことができる技術は実際に様々なことに応用できる為、是非広まってほしいと思う。

 この技術を考え出したあの変じ…技術者は元気にしているだろうか…?

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