タイガーチャンネルのメイド/ドラゴン

秋乃晃

めいど・いん・ぎるどはうす

「おかえりくださいませご主人様!」


 おれがギルドマスターなギルドハウスに戻ってきたんだから『ご主人様』で何も間違っちゃいない。

 ただし、開けたドアを閉められそうになる。


 阻止するおれ。


「ちょっと! ちょっとちょっと!」


 おかえりくださいませってなんだよお。

 他にどこに帰れっていうんだよ。


 それから、おれが左手に構えているブイログカメラに気がついて「何撮ってんだよ!」と叩き落とそうとされた。


 この暴力メイドが今のタイガーチャンネルの相方、ナイトハルトだ。動画の撮影をしたり編集したり、生配信に出演したりと、それなりによくやってくれている。ナイトハルトだと長いからナイハルって呼んでる。


 と、こんな感じに褒めたんだからやめろや。このブイログカメラ、壊したら弁償してもらうからな。ただでさえもギルドハウスの改修費を天引きしてんのに、さらに実入りを少なくしてしまうのは、良心が痛むぜ。だから壊さないでくれよな。


「だっつぇ……せっかく着てくれたんだし、撮らなきゃ損損」

「そうだよー!」


 ナイハルの後ろからひょっこり現れたナイハルとお揃いのクラシカルメイドさんスタイルのめちゃくちゃ可愛い女の子がキサキちゃん。どこに出しても恥ずかしくない美少女。一度出したらそのまま芸能界入り待ったなしかもしれない。千年に一度の美少女さんだって、神がかり的な一枚がバカウケして今の地位があるわけじゃん。


 うちのキサキちゃんはどこにも渡さんぞ。――という意識は、おれよりナイハルのほうが強いと思う。ので代弁しておく。ナイハルとキサキちゃんは夫婦だし。


 一例を。


「キサキちゃん、超似合ってるじゃん」

「でしょでしょー。お城で働いちゃおうかなー」


 えへへー、と笑うその後ろで旦那がこっちを威嚇してくる。このように、ナイハル自身は誰もが目を奪われていく無敵で最強クラスの美少年なのに本人にその自覚が希薄っぽくて、おれがキサキちゃんをちやほやしているとその整ったお顔を攻撃的な形にしてくる。おれに盗られると思っているっぽい。


 そんなわけあるまじろ。


「ミライも可愛いよー?」


 ミライというのはナイハルの本名なので、ここは動画にした際に音声を被せてなんとかしよう。可愛いって言われているシーンは使いたい。実際可愛いと思うし。


「は?」


 今回のメイド服への衣装チェンジは、キサキちゃんのサポートがなければ成し得なかった。キサキちゃんが「わたしが着るからミライも着よー!」と言ってくれなければてこでも動かなかっただろう。


 ミライはハーフドラゴン(父親がドラゴンで母親が人間)らしいからこれでメイドドラゴンの爆誕ってわけ。尻尾だけでも生やしてくれたらさらにっぽくなるけど、また「なんでだよ!」から始まってブーブー文句言い出すんだろうなあ。


「お城から貸してもらった『ホンモノメイド服』だもんねー」

「奥様お目が高い! ドンキで買った安物のコスプレ衣装とは違いましてよ」

「なんだよその口調はよ」


 ホワイトブリムに、カフスに、エプロン。

 これがメイドの三点セットと仮定する。させてほしい。


 今回は『絶対領域』を意識して、スカートは膝上に、パニエでボリュームを持たせて、太ももまでの高さをカバーするニーソックスを穿いてもらった。


 クラシカルメイドさんというとロングスカートだから、今回のスタイルは邪道と言われてしまうかもしれない。アキバのなんちゃってメイドとそう変わらないじゃないかとおっしゃる声もわかる。


 だが、王道と邪道、両方を愛してこそメイド服好きと言えるのではなかろうか。


 むしろ王道やら邪道やらを決めるのではなく、全てが『可愛い』という事実を認めるべきだ。制服好きにもブレザー好きとセーラー服好きがいるが、そこに優劣はない。和食も洋食も美味しい。したがって、昔ながらのメイド服も、改造メイド服も全部素晴らしいものなんじゃないか? 違うかな?


「返しちゃうの残念だなー。買い取れないのー?」

「もう一生着ねえよ」

「えー」


 しかし、こうやって同じ服を着せて見ると男女差がわかりやすいな。


 キサキちゃんの足はすらっとしてて、折れちゃいそうな棒を白い布が優しくくるんでいる。ナイハルのほうは筋肉質なふくらはぎを上から押さえつけるように包み込んでいる感じ。


「なんだよ」

「わたし知ってる。こういうの、ろーあんぐらーって言うんだよね?」


 むっとしている顔も可愛いぜ!

 じゃ、ダメ……? ダメっぽいな……。退散!



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タイガーチャンネルのメイド/ドラゴン 秋乃晃 @EM_Akino

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