最強英雄の教育道

ろうこう

悪夢

あたりが燃える――


「俺たちの恨みを知れ!」


家が崩れる――


「金になるものは全て奪ったな?」


必死に逃げる女性――


「〇〇○、逃げて!」


飛び散る血潮――


「あなたが無事で……よかったぁ」


冷たくなる身体――


「いや、お母さま……いやだよ」


なくなる鼓動――


「〇〇○……あなたは幸せに生きてね……ずっと、応援……しているわ」


地面に力無く倒れ伏す腕――


「ああ……」


ぼやけていく視点――




――ピピピ……ピピピ……


「あああ! ……はぁ……はぁ。久しぶりに嫌なもの見たな」


 とてつもなく明るい陽気に包まれた何かに祝福すらされていそうな朝に彼女は目を覚ました。彼女は悪い夢が途中で終わったことに安堵と少しの心残りを抱えながら、ベットから出た。


「あすかお嬢様!?」


 さっきの叫び声が聞こえてしまっていたのか、扉を開けた背の高いメイド服の女性が、あすかと呼ばれた彼女を心配そうな顔で確認していた。


「気分は大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ、マミさん。ちょっと夢見が悪かっただけだから」


「そうおっしゃるなら、私もいうことはありませんが」


 マミはそう言いつつも、あすかのことを心配した目をしながらマミは部屋から出ていった。


「マミさんも心配性なんだから」


 あすかはそう言いつつも自分のことをしっかり気にかけてくれるマミに感謝の気持ちでいっぱいだった。


「そろそろ、朝食の時間。急いで準備しないと」


 あすかは少し気怠けな身体をなんとかシャキっとさせて、今日から始まる新たな日常――高校への期待を膨らませて卸したての制服に袖を通した。


「少し遅かったな、あすか」


「ええ、優斗お義兄様。遅れてしまい、申し訳ございません」


 朝食の席に着くと、もう全員席に着いていたみたいだ。少し遅れてしまったことを義兄――優斗に咎められるが、気に止めることはなくサッと受け流して、あすかも席についた。


「あすか、今日は少し遅かったようだが気分でも悪いのか?」


「いいえ、大丈夫です。少し夢見が悪かっただけですから」


「そうか、それならよかった。では食事を始めよう」


『いただきます』


 あすかの体調を少し心配した声で聞いたお父様はあすかが大丈夫だと伝えると、あすかから視線を離し、食事を始めた。


「優斗、あすか」


「「はい!」」


 食事が始まるとはあまり喋ることはなかった。食事を終えて、食後の飲み物を待つ時間になるとお父様は口を開いて、あすかと優斗を呼んだ。


「これから、新たな学校で新たな生活が始まるだろう。そして、我々の家は日本を代表する企業グループ――東雲グループだ」


 あすかはお父様の言葉を聞きそびれることをしないようにお父様の方をしっかりと向いて、話を聞いていた。


「その誇りを持って行動をしろ。これはいつも言っていることだが、今日はもう一つだけ言いたいことがある。なんだと思う? 二人とも」


 いつもはお父様が一方的に話すだけであったが、この日はあすか達に問いかけをするという初めての出来事があったので、あすかは頭をフル回転させて質問への答えを考えたがあまりこれだ! というものが浮かび上がってこなかった。


(お父様が伝えたいこと? ……学校生活を楽しむとか、お友達を作るとか? でも、あんまりお父様らしい感じがしないなぁ。それにそれは高校入学じゃなくてもいいはず……なんだろう)


「優斗はどうだ? 答えは出たか?」


 思考を回していると、お父様は優斗に答えを聞き始めた。優斗が何をいうのか少し興味を持ったあすかは一旦考えることをやめて、優斗の発言に耳を傾けた。


「人を率いろ……ですかね。東雲グループの跡継ぎ候補として誰かを動かして、課題をこなす。その訓練として、あの高校を利用しろ……それが俺の答えです」


「ふむ、それも一理あるが……あすかはどうだ?」


「えっと、お友達を作ろう! とかですかね」


 その瞬間、少し空気が凍った感じした。


「そんなわけないだろ、適当言うにしても何かなかったのか?」


「優斗、あまり言いすぎてはいけませんよ。それでもあの程度の答えしか言えないあの子も悪いわね。フフフ……」


(いきなりだったし! 考える時間が少ないだけだし! わたしがバカってことじゃないんだよ!)


 優斗と義母――菊さんに思いっきりバカにされて、少しの恥ずかしさが浮かんできたが、お父様が何も言わないのを気にしたあすかはチラッと見てみると、アゴに手をあてて何かを考えているようだった。


「そうだな……」


 再び、お父様が喋り始めると、あすかをバカにした声は途端に鳴りを潜めて、優斗は瞬間でお父様の方を向いた。


「私の言いたいことはどちらかと言うとあすかの方に近いであろうな」


「なっ!」「えっ!?」


 まさかあすかの方が近しいなんて、あすか自身が一番思っていなかったのに、お父様に自分の意見と近いと言われて、あすかは嬉しい気分になっていた。


「まあ、正解ではないがな。お友達というか、友達ではないが、友達よりもある意味仲がいいもの」


「それってどういうことですか?」


 お友達より仲がいい関係がいまいちピンと来てないあすかはその関係がどんなものであるかは全く分からなかった。


「そうだな、うまくは口にできないが、近しいのであればライバルや師だな」


「お父様にはライバルがいたのですか?」


「人生を大きく変える体験だった。元は私も語気が強めで会社の威を借りるだけの子供であったが、あの人の出会いがなければあのテロ事件を乗り越えられなかっただろう」


 しみじみとした顔で語るお父様は今までの一経営者としての貫禄のある顔ではなく、過去を懐かしむ少年のような顔をしていた。


「私も少し調べてみたが、なかなか個性的な人物が多いようだ。いい刺激になるだろう」


 その言葉を聞いて、あすかはひとまずは心の中に燻っていた悪夢のことをなんとか水に流して、新しい出会いに胸を踊らせた。


「あすか、期待感のある顔はいいが、昨日の夜はパーティで準備ができていないだろう? 大丈夫か」


「あ……」


 その前にやることがあったみたいだ……

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