一匹と一人の不思議な関係
和扇
一匹と一人の不思議な関係
にゃおん
鳴き声が聞こえる。とても綺麗で、少し不思議な声だ。
僕は彼女を追って、ゆっくりと歩く。
にゃ
短い鳴き声、と同時に立ち止まる。
僕も彼女の後ろで足を止めた。
にゃおん
またさっきと同じ鳴き声。
歩き出した彼女を追う。
にゃにゃっ
短く二回。その場で小さく跳んだのか、トトッと連続した足音も聞こえた。
これは右に気を付けろ、という警戒指令だ。ジャァーと凄い速さで自転車が僕の前を通り過ぎていった。彼女の指示が無かったら衝突事故になるところ、危ない危ない。
にゃおん
ぜんた~い、前進!
彼女が人間なら、ピッピッとホイッスルでも鳴らすのだろう。それ程に進め止まれの指示が明確で的確。自由奔放なのが猫、だがしかし彼女はとても生真面目な性格だ。
にゃーにゃっ
右に気を付けろ、いや少し鳴き声が長いから左に警戒だ。
えっほえっほと声が近付いてくる。運送会社の配達員さんが、重い荷物を運んできたんだ。僕の事に気付いた彼は「あ、すみません」と軽く謝って、僕の隣を駆けていった。
先導する彼女は、少し離れた所にある危険もしっかりと把握している。水先案内人として、これ程に優秀な者はいないだろう。
にゃおん
まだまだ進むぞ、足を前へ。
とつとつコツコツ、小さな足音と靴音が重なる。彼女の足音はほとんど聞こえない、流石は猫だ。
なぁ~お
これは…………なんだっけ?ええっと?
あ、ただの欠伸か。今日は寝不足なのかな?まあ『ねるこ』で『ネコ』とも言うし、いつも眠いのかもしれないね。
フーッ!
うわっ、なになに!?
急な警告の鳴き声にビックリ。何が起きたんだろう?
カアカア
フーッ、フーッ!
ガアギャア
カラスだ!
一羽二羽じゃない、沢山の鳴き声が目の前だけじゃなく、周りから聞こえる。
一対複数。素早く賢い彼女であってもカラス相手は大変だ、それが沢山となるともっと大変。逃げた方が良いよ!
シャーッ!
バサバサッ
ギャッ!
より強い彼女の声とダッと明確な足音。短い声は彼女のものじゃない、カラスだ。
飛び掛かった彼女に驚いてカラスは飛び立ったが、それよりも速く爪が捉えた。ずしゃっという音と共に一匹は着地し、一羽は叩きつけられる。一瞬のうちに形勢は逆転、彼女が倒したのはカラスのリーダーだったのだろう。
なー
いかにも誇らしげに勝ち名乗り。ガアガアいっていた声は、いまや一つも聞こえない。一発で黙らせた、凄い。
にゃおん
また、彼女は鳴く。進むよ、と。毅然としていてカッコいい。
しゃなりしゃなりと歩いている。長い尾を立てて揺らめかせている。その毛並みは実に綺麗で、太陽の光を受けて輝いている。
絶対にそうに違いない。たとえ、僕には分からないとしても。
にゃぁ
そんな僕に向かって、彼女はひとつ鳴いた。
一匹と一人の不思議な関係 和扇 @wasen
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