第6話 番外編:家屋の下見を担当した爺様の、奇妙な日常。
その日は若いお客が一軒家を下見したいとの話じゃったが、現代表の娘(ワシから見りゃ孫だの)から「何故か胸騒ぎがするんです!」と泣きつかれて、偶然予定の空いとったワシが直々に担当する事にしたんじゃ。
会長なんぞと偉そうに名乗っとるが半分は引退した老いぼれじゃし、拡大志向なんぞこれっぽっちも無い地域密着型の商いだがのう。ほっほう!
あちらさんの要件は『比較的治安の良い場所にある小さな戸建て、又は土地』と来た。
そりゃこのオットケーネは規模もあるし、選り好みせなんだら安く買える物もあるが……比較的治安が良いとなると途端に値が張る。
安全とは即ち ”金” じゃからな。この世は王侯貴族様と大金を積んだ者が優先される、それが真理よの。
治安の良い小さな土地なぞ、無茶を言う。金に糸目をつけぬなら競って広くが当たり前というに。
そこからして妙じゃったが……実際目の前にしてみれば、確かにこれは孫には荷が重い。久々に全身の羽根が震えておるわい!
その方々は猫獣人の若夫婦にしか見えぬが、少なくない経験とワシの勘が盛大に鐘を打ち鳴らす。とんでもなく畏れ多い存在であられると……。
うぅむ……。下手すりゃワシ、生きて帰れんかも知れんのぅ。
結論から言えばワシは無事に商談を終えられた。元々有った家屋はあちらで取り壊しの上、建て直すという。
いやはや一時はどうなるかと思うたが、終始波風立つことも無く穏当に終えられて良かったわい。
次の日ほぅと喉を鳴らして執務室で一息ついておると、代表であるワシの息子が慌てて部屋に駆け込んできおった。
どうしたんじゃ騒々しい、扉を開ける前に声掛けを――
「どうしたもこうしたもありませんよ! あの物件の支払いがとんでもない量で……!」
聞けば既に商業ギルド経由で払い込まれた分は提示の十倍、しかも慌てて土地の確認に向かわせると真新しい家屋が一夜にして建っていたという。
あ~もうワシ、知らんぞい。触らぬが花じゃ……。
異世界猫は、気まぐれに。 新佐名ハローズ @Niisana_Hellos
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