先輩は天然記念物
「橘君!? た、大変だ!!!」
白雪先輩が切羽詰まった顔で俺の下にやって来た。
前生徒会長が二年生の教室に飛んでやって来たということで変に注目を集めてしまった。
「あーもう! なんなんっすか!?」
ひとまずは白雪先輩を連れて人の少ない所へ。有名人の白雪先輩の手を引っ張っているということもあって、なんだなんだと騒ぎになってしまう。
俺が行きつけのゴミ捨て場近くの花壇に到着。
なぜか心が疲れ果ててしまった。主に先輩のせいだが。
「用があるんだったらLAINで連絡してくださいよ。いきなり教室に来られても困りますって」
「ああ、そうか。忘れていた。すまない」
それがあったか、と白雪先輩は感心したようにポンと手を叩いた。
ああ、本当にド忘れしていたんだな。まあ、先輩ならしゃーない。
「何か緊急事態があっても落ち着いてスマホを手にして連絡する。オッケーですか?」
「ああ。ついつい焦ってしまうと忘れてしまう。気を付けないといけないな」
「そうですね。で、何の用ですか?」
「これを見てくれ」
「ん?」
白雪先輩が見せてきたのは彼女所有のスマホ。特に何の変哲もないスマホだが、白雪先輩は困惑気味に、
「画面にひびが入ってしまった」
「ああ、確かに。ひびっぽいのが入っていますね」
小さなひびだが先輩に言われて確かにとなった。だけど、
「ちょっといいですか?」
「何をするんだ?」
「いや、ひびといっても保護フィルムが傷ついただけかもしれないんで。少しだけ剥がして確認してもいいですか?」
「??? 保護フィルム?」
「スマホの画面を汚れとか傷から守ってくれるフィルムのことですよ。大体の人は保護フィルムをしているんで」
「ん? 私は保護フィルムとやらを張った記憶がないが」
「スマホ買った時にスタッフの人が張ってくれたんじゃないですか。現に先輩のスマホにも張ってあるんで」
「あっ。母と買いに行ったときにフィルムが云々と話していた記憶が薄っすらとあるような気がしてきた」
白雪先輩は合点がいったのか、一人でうんうんと頷いている。
「スマホの画面は無事なんで、新しく保護フィルム買った方がいいですね」
「なるほど。手間をかけさせてすまない」
「いいですよ。後で買って張り直してくださいね」
「承知した」
スマホを返すと俺と白雪先輩は解散となった。
今日の放課後にでも新しく保護フィルムを買い直して張り直すだろう。そう思っていたが。
翌日。またしても血相を変えて俺のところにやって来た白雪先輩。
二日連続となると嫌な予感というか、昨日のことを思い出してしまう。
「先輩。ちょっと」
「なぬ?」
俺は白雪先輩をいつもの花壇に連れて行き、何の用かと聞くと、
「大変なんだ! 保護フィルムを買ったはいいが、スマホに全く合わなくて……はさみで切って調整した方がいいのか!?」
「ん?」
白雪先輩が勝ってきたと思われる保護フィルム。よく見たら先輩が所持しているスマホとはまったく異なるものであった。
「あの先輩。これ先輩が持ってるやつに合いませんよ」
「なに?!」
「ちゃんとよく見て買いましょうね。一度開封しちゃってるから返品もできないですし、ちょうどこの保護フィルムが俺のスマホに合うんで、お金渡しますから新しいのを買いましょう」
「う、うむ。すまない。またしてもとんでもないミスを……」
「そういうこともありますんで」
申し訳なさで何度も頭を下げる白雪先輩。この人は決してわざとではない。
作り物でも可愛さをアピールするためのものではない。ただの天然だ。
だから、白雪先輩が何かミスをしても怒る気にならない。彼女の生真面目さが時として天然が発生してしまい、こうやって間違った物を買ってしまうこともあるだろう。
「先輩の機種はこういうので」
先輩はスマホの機種について疎いこともあって、親切丁寧に説明した。
ふむふむとしっかりと聞いて、ちゃんとメモをする。流石先輩だ。
「お金に余裕があるんだったら保護フィルムだけじゃなくて、スマホカバーも買った方がいいですよ」
「なぜだ?」
「スマホを落っことしたりしたら傷が付いちゃうだろ? それを防ぐって意味でもいいと思うけど」
「なるほど。確かに自宅で勉強中に何度も落としそうになって焦ってしまったことが何度もある。君の意見もごもっともだな」
「そうっすね」
「わかった。保護フィルムとカバーを今日、買いに行ってくる。次こそは間違えない。迷惑かけてすまない」
「いえいえ。そんじゃ、また」
「ああ。またな」
これで大丈夫――と思ったのも束の間。
翌日のことだった。
「た、橘君!? た、大変だ!?!」
白雪先輩がまた血相を変えて教室に出現。慣れた手つきで花壇までやって来ると、
「君の言う通りに保護フィルムとカバーを買ったはいいが……保護フィルムが貼れない。カバーはなんとかなったが……」
「……あの、それうっすいフィルムみたいなのが貼ってあって、それをはがすんですよ」
「ん? あ、確かにそれらしきものが」
「……」
ここまでくると怒りよりも大丈夫かと不安が勝ってくる。
この人、悪い人に引っかからないといいけど……。
「確かに貼れた!」
ま、保護フィルムを貼っただけで子どものようにはしゃぐ先輩が見れたからいいか。
ラブコメ漫画のサブキャラになったので、主人公をアシストしようとしたらなぜかヒロインたちに好かれていました さとうがし @satogashi
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