男同士の会話はくだらないことが多い
俺と高橋。二人っきりでダーツをしに来ていた。たまには二人で話をしようと、と高橋に誘われた。もちろん、断る理由もないし、こ奴と話すのもなんだかんだ悪くないしな。
「ねえ、橘。君をここに呼んだのに理由があるんだ」
「なんだ?」
高橋は華麗なフォームでダーツの矢を投げる。見事に二十のトリプルに刺さる。
お見事だ。それに比べて俺はボードに当てるのに精いっぱい。
「うん。他に人がいると話しづらいというか……」
「そんな深刻な話なのか?」
「そうじゃないんだ。ただ、ちょっと、ね?」
「なんだよ。もったいぶらないで話してみろって」
「うん。実はね」
カウントアップは高橋の圧勝。俺たちはカウントアップでひたすらに楽しみながら雑談に花を咲かせる。
「僕のカバン。実は穴が空いちゃって……どうすればいいのかな?」
「はあ? どんなもんだよ」
カバンに穴が空く。特に制服を着て指定されたカバンを買うように、みたいな学校が多い。選択の自由はないのか、と思うし、デザインもイマイチなことが多い。
学生の多くがダサいだの、違うカバンで学校に行きたいと文句たれる。
俺も当初はそいつらと同意見だったが、時間が経つにつれて愛着がわいてきてしまってから好きになった。
大切に扱う一方で雑に扱ってしまう。愛があるが故に信頼している。
この矛盾が学校指定のカバンにあるのだ。
「カバンの底に小さい穴が空いちゃったんだ。大切に使っていたんだけど寿命が来ちゃったかな?」
「んーどうだろう。こういうもんだと思うけどな。今から買い替えるのはもったいねぇし、だからといってこのまま放置すると穴が広がりそうだよな」
「そうなんだよ。どうしようかなって悩んでいるんだ」
「そうか。どっか修理してくれるところに頼めばいいんじゃねぇか」
「それしなないよね……」
「早めに修理に出しておけ。これ以上広がったら大変だからな」
「わかった。君の言うとおりにするよ」
高橋のカバン。確かにほんのちょびっとの穴が空いていた。
だけど、こんなくだらないことを話すためにわざわざダーツに誘ったのか?
「というのは前座。本題はこれからなんだ」
「だろうな。で、本題はなんだ?」
「新しい財布を買おうと思っているんだけど、どれがいいのかわからなくて」
高橋という男はファッションセンスだけではなく、財布やそういったものの選定のセンスが悪い。なぜならば、高校一年生の時、初めて高橋と話すようになってからこやつの財布がバリバリと音がするやつだった。
高橋曰く、昔から使っているからとのことだったが、ボロボロ過ぎたしバリバリはそろそろ卒業してもいいんじゃないか、というアドバイスをして父親が使っていたお古を貰ったとか。
「……好きなやつ選んで買えばいいじゃねぇか」
「う~ん。どこで買うべきなのかな?」
「そんなの適当なショップに行けばいいんじゃねぇの?」
「僕はそういうお店、全然知らないからな。正直、使えればなんだっていいかなって思っているんだ」
「ま、実際そうだもんな。バカみたいに高い財布を買ったところで、だから何だって思うしな。それにキャッシュレス化が進んで、そもそも財布を持たないって人も増えているからな」
なんでもかんでもキャッシュレスばかりだとお金持ちの人はいいかもしれないが、一般庶民は金銭管理が甘くなる人も出てきているだろう。
「どんな財布がいいんだ?」
「そうだね。僕は使い勝手がいいのが欲しいな」
「なるほど。そんじゃこれから買いに行くか?」
「うん! 予算は一万円だからね」
「じゃあ、安いの買って後は好きなの買っちまえばいい」
「あはは。橘らしいね。ちょっとくらい……別のものに使ってもばちは当たらないかもしれないね」
ダーツをしばらく遊んだ後、俺たちは近くの雑貨店にやって来た。
男二人。それも制服を着た若人。放課後のワンシーンに過ぎない。
「どれにする?」
「ん~。このトラ柄といいんじゃないか」
「お!」 カッコいいねこれ! これにしようかな」
「ストップ! ちょっと待て。こんなの持ってたら某プロ野球ファンと勘違いされる。お前の贔屓はどこだ?」
「野球はそこまで詳しくないけど、上げるとするとよみう――」
「ああ。あのチームか。あのチームが強くねぇと面白くねぇもんな。ファンもアンチも全国に多いからこそ、強く、スター選手が居ねぇと今後の野球界のためにならねぇしな。今はアメリカに移籍するのが一流の証みたいになってるから、今後どうなることやら」
「詳しいんだね」
「ああ。だけどSNSは見ねぇな。とんでもねぇことばかり投稿されている魔境だからな」
「大変だね。トラ柄は候補の一つに置いていくとして……これはどうかな?」
「バリバリ財布から卒業しような。たしかにお札もカードも小銭もいっぱい入るかもしれねぇけど」
「えー。いいと思うんだけどな」
「はいはい。次を選べ」
「う~ん。これはいいんじゃないかな?」
「これはちょっと派手過ぎないか? ピンクにオレンジに……少しおとなしめなやつがいい。これは絶対にいじられるやつだ。過去の俺がそうだった……うっ」
「あはは……」
結局、高橋の財布は俺が選んだ。あいつが選ぶとロクでもないものを買おうとする。つーかなんなんだよ。俺はあいつの母親かっつーの。もしくは恋人のファッションセンスが壊滅的だから選ぶ人かよ!?
そうだった忘れてた。高橋のセンスは本当にダメダメ。
俺がいねぇとダメじゃねぇか。でもまあ……高橋は高橋のままだから別に、なんだ。嫌いじゃねーし。
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