猫と恐怖体験

天西 照実

猫と恐怖体験


 これは、私と地域猫との間で起きた恐怖体験です。



 晴天の猛暑日が続いた後の、雨が期待できそうな曇り空の日でした。

 久々に庭の草むしりが出来ると思い、早起きをして庭へ出ました。

 猛暑の影響で野菜は値上がりしているのに、庭の雑草ばかりが元気です。


 いつも人目につく門の周りから、草むしりを始めます。

 植木を避けるように曲がりくねった庭の通路には、防犯用の砂利が敷かれています。

 その通路の先に、茶虎のオス猫が座っていました。


 ボランティアさんに去勢手術をしてもらい、ご近所でも『メタぼう』と呼ばれて可愛がられている地域猫です。

 あちこちで美味しいご飯をもらっているようで、けっこうなメタボ体型のメタ坊。

 私がひとりで庭仕事をしていると、近くにやって来て見物してくれます。

 応援がいるようで、庭仕事も楽しくなるのです。

 またメタ坊が付き合ってくれるのだと、億劫な草むしりも楽しくなりそうでした。


 でも、その日は様子が違いました。

 いつもなら目が合うとすぐに近付いて来るのですが、メタ坊は通路の先でお座りしたまま、こちらを見つめています。

 目が合っているような、合わないような。

 麦わら帽子に日除けのフェイスカバーも身に着けていたので、私だとわからないのかと思い、

「おはよう」

 などと声を掛けながら近付きました。


 なんとなく、表情がいつもと違う気がしたのです。

 具合でも悪いのかと。

 メタ坊の様子を見ながら近付いていくと突然、足元から、

 ガシャガシャガシャッ!

 と、通路の砂利を掻く音が響きました。

 私が驚いて飛び退けると、砂利の上で15センチほどのネズミが藻掻いていたのです。


 私が長靴の底で、長く伸びたネズミの尻尾を踏んでしまったようでした。

 下半身を怪我しているらしく、前足だけで這うように砂利を掻いていますが、上手く進めずにいます。

 それを見て私が固まっていると、やっとメタ坊が腰上げ、軽い足取りでやって来ました。


 野良猫や外飼いの猫は時々、ネズミや小鳥を、食べる訳でもなく持ち帰る事があります。

 そのネズミは、メタ坊からのお土産のようでした。

 私がネズミに気付くところを見たかったのでしょうか。

 メタ坊に目を向けていたので……ネズミを踏み潰してしまわなくて、本当に良かったです。


 以前にもメタ坊が取ってきたネズミを、父が適当に庭へ埋め、その尻尾を雑草の根っこと間違えて私が引っ張り出してしまった事がありました。

 お墓を作るでもなく庭に埋められては、おちおち草むしりも出来ません。


 しばらく経って、動かなくなったネズミは新聞紙に包んで、草むしりで出た雑草ゴミと一緒に燃えるゴミへ出しました。

 せっかく取ってきてくれたメタ坊と、ネズミにも悪いと思いますが仕方ありません。



 今でも私が庭仕事をしていると、メタ坊はどこからか遊びに来てくれます。

 ……その口には何かが銜えられていないか。

 通路にお土産が残されていないか。

 少々、身構えてしまうようになりました。


 なにかもっと、とんでもないお土産を持ってこない事を願うばかりです。


                          了

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猫と恐怖体験 天西 照実 @amanishi

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