葬儀を終えて
かきはらともえ
やらなきゃいけないこと
母が死んだのは十年前になる。
古い家を処分しないといけないと思ったら、どうにもお金がかかる。
葬式で莫大なお金がかかり、実家の処分でお金がかかる。解体にもかかるし、洗濯機などの家電用品の処分にも大金がかかる。
しばらく放置していたが、私の兄弟が死んだ。
三人兄弟の一番下、弟が死んだ。
全身に
死の直前に会ったときには顔は真っ青で、腐った木みたいな色をしていた。
喋っていて表情こそ動いているが、左右は非対称な表情で、
やがてモルヒネが効いてきて、そのまま眠った。
その面会から二週間後に死んだ。
葬儀は身内だけ慎ましやかに行った。火葬後に見た骨を見て衝撃的だった。
母の火葬後に見た骨とは違っていた。
骨はすかすかだった。割れている骨はまるで麩菓子のように脆く、その内側から黄緑と水色の繊維が見えた。
箸で掴んだとき、少し力を入れるとその骨は砂のように崩れ落ちた。
残骸としか言いようがなかった。
これが薬剤による治療との対価なのかとぞっとした。
「こんなになるまでがんばったんだな」と妹は言って、涙声になっていた。
私と妹は自分たちの命もそんなに長くないかもしれないと悟った。
別に弟みたいに病気を患っているわけではないが、人はいつ死んでもおかしくない。
自分の子供たちに迷惑をかけないためにもできることはしておかないと。
私たちは実家を処理することにした。これは子供の代に引き継ぐものではない。まるで樹海のようになっていた実家の草木を伐採した。
私も妹もお金はない。
弟の葬儀もお金がかかったし、マンションから身辺の物を撤去してもらうための手続きでそれなりの費用がかかった。
生きていてもお金はかかるし、死んでもこれほどまでにお金はかかるものなのか……。
主人と、妹の旦那、娘の旦那の三人が軽トラを借りてきて、家具を運び出した。それは夜のうちに行われていた。
隣の町にある川はとにかく汚い。
そこへの不法投棄はあとを絶たない。
下流は私たちの町にまで流れていて、臭くて水質だってよくない。私が子供の頃はこの川で泳いでいたというのに。
昔のことを思い出して、地元のことを大切に思う気持ちはある。
そんな気持ちはある。
だけど、そんな気持ちひとつではどうにもならない。
私たちは不法投棄を行った。幸いながら未だに見つかっていない。実家は自治体が行っている支援金と身内で出し合ってどうにか解体した。
それなら何ヶ月と経ったある日。
私は近くのコンビニに煙草を買いに行くとき、かつて実家のあった場所の前を通った。普段はあまり通りたくなくて少し遠回りの道を通っている。煙草を買った帰りに見に行ってみることにした。
雑草がちらほらと生えているだけの、ただの空き地になっていた。
倫理観の問われる行動をしたのは理解している。だけど、私たちが問われているのは明日からの生活であって、子供たちの将来のことだ。
そこでお線香の匂いがしたような気がした。
私は煙草に火を点けた。
葬儀を終えて かきはらともえ @rakud
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます