探し物は占い師まで

睦月ネロ

探し物は占い師まで

 高校からの帰り道。瑠奈はいつもと反対側の電車に乗った。ちょっとした冒険気分だった。

 よく当たる占い師がいる。そんな噂を聞いたのは、三日前のことだった。

「その人、本当によく当たるんだよ。琴美の彼氏が浮気してることも見抜いたんだから」

「へー」

 瑠奈はそっけなくしていたが、内心では興味津々だった。そんなすごい人がいるなら、ぜひとも占ってもらいたい。友人からさりげなく占い師のいる場所を聞き出した。今、電車で向かっている。

 もし自分も占ってもらいたいなんて言ったら、きっと何を占ってもらう気かと聞かれるだろう。だけど、絶対に言いたくない。

 瑠奈は捨て子だった。三歳のとき、児童養護施設の前に置き去りにされた。服には瑠奈と名前が書いてあったそうだ。施設はすぐに保護した。

 その数年後、瑠奈は今の養父母に気に入られて引き取られた。養父母はよくしてくれている。だから感謝しているが、それでも本当の両親に会ってみたいという気持ちが瑠奈の中に強くあった。どうして私を捨てたのか? 私を愛していなかったのか? どうしても直接会って聞きたかった。

 占い師ならきっと私の両親の居場所だってわかるはずだ。瑠奈の胸が高鳴った。

 改札を抜け、外に出る。リュックから手書きの地図を取り出した。占い師はここから十分ほど歩いた所に店を出しているはずだ。友人情報によると、平日のこの時間ならいるらしい。瑠奈は歩き出した。

 本当に何もない場所だ。いや、正確に言えば住宅や小さな商店はまばらにあるのだが、あとは田んぼか畑だ。本当にこんなところに占い師なんているのだろうか。少なくとも自分だったら、もっと別の場所に店を出す。歩いているうちに不安になってきた。

 それでもしばらく歩くと、占い師がいる場所の近くまでやってきた。この曲がり角の先だ。この先に例の占い師がいる。瑠奈は恐る恐る近づいた。

曲がり角の先に、果たして占い師はいた。フード付きのマントを着ていて、顔は見えない。小柄なので女性のようだ、ということだけわかった。机の上には大きな水晶が置かれている。いかにもな占い師だった。

「あの!」

 瑠奈が声をかけると、占い師の体がビクッとはねた。

「あっ、驚かせてしまってすみません。占ってほしいんですけど」

「……何を占いましょう?」

 占い師は気を取り直したように、細い声で言った。

「私の両親の居場所を教えてほしいんです」

「ほう」

「私、三歳のときに児童養護施設の前で捨てられたんです。その後は養父母に育てられました。お父さんもお母さんも優しくしてくれるけど、私、どうしても本当の両親に会いたいんです」

「会って、瑠奈さんはどうしたいんですか?」

「何で私を捨てたのか聞きたいです。私を少しも愛していなかったのか、直接聞きたいんです」

「……わかりました」

 占い師は水晶の上に両手をかざしだした。フードに隠れて視線はわからないが、たぶん水晶を見つめているのだと思う。

 しばらくすると、占い師は両手を机の上に置いた。

「残念ですが、あなたのご両親はすでに亡くなっています」

 抑揚のない声だった。

「そんな……」

 瑠奈は全身から力が抜けていくのを感じた。せっかく両親の居場所がわかると思ったのに。二人に会えると思ったのに。

 呆然としていると、占い師は淡々とした声で続けた。

「ご両親は決してあなたを愛していなかったわけではありません」

「え?」

「あなたが生まれたとき、ご両親はとても喜びました。しかし、やむにやまれぬ事情で、あなたを手放したのです。決して許されることではありませんが」

「本当ですか?」

「はい」

 占い師は頷いた。その声は少しだけ力強かった。

 そっか。私は愛されていなかったわけではないんだ。

 占いが本当かどうかはわからない。でも、その言葉に瑠奈の心は軽くなった。

「それなら、よかったです」

 どうせ両親に会える可能性なんてほとんどないのだ。だったら勝手に好きなように考えたって構わないだろう。

「ありがとうございました。なんか気持ちが楽になりました」

「それならよかったです」

 占い師に手を振り、瑠奈は来た道を戻った。


 曲がり角を曲がり、瑠奈の姿が見えなくなると、占い師はフードを脱いだ。その顔は涙で濡れていた。

「瑠奈、大きくなったね」

 ぽつりと呟いたその声は、誰に聞かれることもなかった。

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