第19話地震消滅光線

日本の広い地域に震度6以上の地震が予測された。

「大変だ。地震怖い。」

「辻先輩、誰だって地震は怖いでしょ。」

「いや。子供の頃大地震にあって家具の下敷きになったんだ。それ以来、ちょっとでも揺れると動悸、めまい、ひどい時は吐き気までするんだ。大型地震の予報なんて聞いたら、夜眠れなくなっちゃうよ。1人でいるのが不安だ。どう?、菊岡さん、この機会に僕と一緒に住まない?。」

「イヤですけど。」

菊岡は即座に断った。

「うん、解ってるよ。僕の事が大好きなのに、恥じらってるんだよね。本当にカワイイんだから。」

菊岡は頭を左右に振ってため息をつきながらその場を離れた。

「辻先輩って本気なのか冗談なのか解らないからな。」

と、颯太も笑いとばしたが、後で辻の幼馴染である藤城薫に聞いたところ、地震恐怖症は本当で、かなり深刻だということだった。

「藤城さん、辻先輩の地震恐怖症ってどの程度本気なんですか?。」

「15年くらい前に大地震にあって家が半壊して、辻󠄀ちゃん半日たってから救助されたのよ。脱水症状とか打撲傷で入院もしたの。骨折とかは無かったみたいだけど。同級生でもなくなった子とかいて。私の家は被害が無かったけど、地震直後の風景は今でも夢にでるわ。トラウマになってる子沢山いると思う。」

その言葉を裏付けるように辻の顔色は日に日に悪くなり、見るからに具合が悪そうになっていった。

「辻先輩大丈夫かな?。眠れてないみたいだけど。」

「大丈夫かもね。数週間前に政府から地震を消滅するマシンの製造を依頼されてたから、そろそろ完成する頃じゃないかな?」

菊岡は辻󠄀の事をあまり心配していないようだ。

数日後、俺と辻先輩は鬼塚に呼び出された。

「国土地理院の地震予知連絡会に納品してくれ。震源地の近くにこの地震消滅光線を撃てば、地殻が揺れずに元の形戻るんだ。予想震源地を聞いて対応してほしい。」

「じゃあ、地震が来なくなるってこと?。」

「ああ、もちろん。」

「さすが天才鬼塚社長。最高。」

辻先輩のあまりのテンションの高い喜びようにさすがに物事に動揺しない鬼塚でさえ、俺に目配せをして助けを求めた。

「辻先輩、地震恐怖症だそうで。じゃあ、行ってきます。」

あまりの喜びで、自分をコントロールできず異常な行動をとっている辻先輩の襟首をつかんで車に押し込み、俺らは地震予知連絡会に向かった。

「地震消滅光線の納品に参りました鬼塚研究所の者ですが。ご担当者様をお願いします。」

受付から応接室に案内され、出されたコーヒーを飲んでいると数人が部屋に入って来た。

彼らは俺でも知っている程有名な大学教授達だった。

「 良いタイミングでの納品で、ホッとしたよ。じゃあ、機能の説明と、使用マニュアルの説明を簡略に頼みます。」

俺と辻先輩の説明が終わると、大学教授達は頷きながら感心してくれた。

「こんな方法があったとは。さすが鬼塚博士。本当は直接お会いして質問などしたかったのだが。」

「すみません。社長の鬼塚は既に次の研究を始めております。疑問点などございましたら、私達が伝言致しますが。」

「イヤ、専門用語が多いから、君達に伝言を頼むより文書にした方が早いだろう。それに、質問といっても使用に関する質問ではなく、学術的な観点からの疑問がいくつかあるだけだ。」

「解りました。では、文書にしていただいて、社長に提出させていただきます。」

「では、すぐにヘリコプターに乗って、地震の震源地と考えられる場所に向おう。」

我々はこのビルの屋上からヘリコプターに乗り込み奄美大島付近の海上に向かった。

ヘリコプターの扉を開け、自分の体をベルトで固定し光線銃を構えた。

「だいたいで的に当てればいいからね。光線が自分でズレている地盤のプレートを探しだして元に戻すから。」

と、鬼塚が言っていたのを思い出しながら、自信たっぷりなかんじで海上に光線を撃ち込んだ。

だってカメラマンが同行して、俺達の一挙一動を記録しているんだ。

ー菊岡さんが見るかも知れないと思うとカッコつけちゃうよね。ー

ヘリコプターはゆっくりと奄美大島付近を旋回し、異変が無いことを確認してから国土地理院のビルの屋上に着陸した。

屋上から地震予知連絡会の研究室に入り、全ての計器を確認してから、

「ご苦労さまでした。無事確認が取れました。プレートの歪みが取れています。地震の危機は回避されました。おめでとう。成功です。」

震予知連絡会の研究室は拍手につつまれた。

いつの間にか大勢の人々が我々の周りをかこみ、廊下にまであふれた人でいっぱいになっていた。

「地震大国日本に画期的な瞬間が訪れました。」

いつの間にかカメラマンの横にはマイクを持った女性が現れ、俺達にインタビューをはじめた。

「鬼塚研究室の一員として、この快挙を迎えて、喜びを教えてください。」

「そうですね、社長の鬼塚の研究を世に広める為、我々は常に最善の努力をしています。今回の快挙は天才鬼塚の面目躍如と言えるでしょう。かくいう私も幼少時に大地震を体験し、地震恐怖症という辛い後遺症と闘ってきました。それも今回の地震消滅光線銃の発明により、もう二度と地震で辛い経験をする人々がいなくなることでしょう。私はこの記念すべき日に、こんなに美しい女性に出会う事が出来たことも運命なんだと信じています。」

辻先輩はイケメンナンパ男の魅力を最大限に発揮して、インタビューアーの女性に取り入ってみせた。

俺はカメラマンの後ろに隠れ、なんとかこの場を脱出できないか、頭を働かせた。

「すみません、会社から緊急呼び出しがありまして、私の同僚にこのメモを渡してもらえますか?。」

先ほどコーヒーを出してくれた女性を見つけて、メモを渡し、とっととその場を逃げ出した。

辻先輩はまだ嬉々としてインタビューを受けている。

ー辻先輩、おまかせします。俺、そういうの苦手なんで。ー

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