あやかし探偵事務所活躍する

「颯太、警視庁捜査四課から連絡がはいってるんだが?。」

俺が事務所に入った途端、じっちゃんが俺に携帯を押し付けた。

「おお、颯太くん。君の出番だ。すぐに警視庁に来てほしい。時間がない、探偵事務所の外で覆面パトカーが待っている、白いマークXだ。」

聞き覚えのある捜査四課課長の声にしたがい、颯太は走って白いマークXに乗り込んだ。

「呪術師の仕事です。現場はお台場。取り壊し予定のビルに怪異発生。出発します。」

覆面マークXがサイレンを出しながら、高速を駆け抜けていく。

ーうわ~、後部座席でこのスリル。助手席の人、怖くないのかな?。ー

メーカーの試運転でもこんなにスリルはないだろう。

一般車の間を縫うように、マークXはこれでもかとスピードをあげる。

ー新幹線より速いんじゃないの?。ー

あっという間にビルの谷間から解体中らしい建物の前に到着した。

「解体中のビルには解体業者の数人が囚われているようだ。まずは人命の確保。次に怪異の封印を。複数の地縛霊が何らかの媒体に吸収され大きな怪異を形成している模様。ただし、一体だけとは限らん、気をつけろ。」

パトカーの無線からの指示に

「はい、行ってきます。」

と答えて、身をかがめながらビルに入っていった。

ビルの中はイヤな気配が満ちていた。

悲しい、淋しい、不安、怒り、恐怖、後悔、いろんなものが混じってドロドロしている黒い霧のようなものが俺を取り囲んだ。

ー囚われている人々はどこだ?。ー

この霧のような邪気にあたると、普通の人は体調を崩してしまうだろう。

ー早く救助しないと。ー

地下への階段を降りていくと、黒い霧のようなものが濃くなってきた。

ー何かいる。ー

と、思ったとたん、何かが襲いかかってきた。

ギリギリでそれをかわし、封印を試みたが、

「スゲー邪気だ。封印が押し返されてる。」

地縛霊の数が多い為なのか、媒体となったもにのせいなのか封印がきかない。

「マズイな。押し負けてる。人命救助を第一にするはずだったのに。」

その時、上の階からなにかが飛び降りた。

そいつは、ビュンと吹っ飛んで行って、邪気の中心に体当たりをした。

「キロロ。助けに来てくれたんだ。」

「待たせたな。やれ。」

キロロの協力でなんとか怪異を封印出来た。

あちこちを探して、やっと地下の駐車場の守衛室らしい場所に解体業者の人々が倒れているのを発見した。

「良かった。皆、邪気にあたって気を失っているだけのようだ。待機しているパトカーと、救急車に連絡したいけど、携帯は圏外か。」

オレはキロロを見た。

キロロは俺に頷いてみせた。

「大丈夫だ。出ておいで。何もしない。」

キロロが声をかけると、駐車場の太い柱の後から野武士の妖怪が現れた。

「怪異の媒体になっていたのは、お前の持ち物なのか?。」

野武士の妖怪は黙って頷いた。

俺は先ほど怪異がいたあたりを携帯の灯りを頼りに探してみた。

そこには錆びた金属の棒が落ちていた。

「もしかしたら、これお前の刀だったのか?。」

野武士の妖怪はまた黙って頷いた。

「悪いな。これ、証拠物件だし、警察に提出してまた怪異の媒体にならないようにしないと。」

俺が言うと、

「お前はワシと来ればいい。ここは解体される。ワシの周りには、妖怪も大勢いる。」

と、キロロが優しく誘った。

「良いのか?。一緒に行っても。」

野武士はまだ決めかねている。

「長い事ここに囚われていたんだろ?良いんじゃないかな?。新しい事を始めても。」

「新しい事?。そうか、それもいいな。」

野武士はキロロに着いて行き、俺は覆面パトカーに戻った。

「大丈夫だったか?。遅いから心配したぞ。」

「心配してくれてありがとう。コレ証拠品です。」

俺はボロボロの刀を刑事に渡した。

「じゃあ、署に帰って報告書を書いてもらう。」

「報告書?。書き方が分からないんですが。」

「大丈夫。教えるから、ゆっくり覚えれば良い。俺達だってあやかしだの怪異だの解らない事ばかりさ。」

覆面パトカーはゆっくりと署に向かって走り出した。

後部座席でうたた寝をする颯太を、刑事達はバックミラーで見守っていた。


数日後、

「颯太、また警視庁捜査四課から連絡がはいってる。」

「はい、お電話変わりました。」

「颯太くん。探偵事務所の外で待っている。緊急だ。」

俺はすぐに外で待っていた覆面パトカーに乗り込んだ。

「女子校で集団ヒステリーで数十人が倒れた。本当は呪いが原因らしいんだ。」

呪いと聞いて祖母の死が頭によぎった。

「みんな、無事で居てくれ。」

颯太は祈るような気持ちを声に出した。

パトカーが女子校に到着すると何台か救急車もとまっていた。

颯太は走って校舎に入った。

女性とにまじって、救急隊員もあちこちに倒れている。

「呪いの中心に行かないと。」

颯太は呪いの気配の強い校舎の一階、北側に向かった。

呪いの中心に近づくにつれ頭痛や吐き気、悪寒が耐えきれない程強くなったいった。

呪いの出す黒い霧のような邪気のせいで、どんどん視界もきかなくなったいく。

倒れている人々を踏まないで進むのがやっとだ。

「たぶん、ここは保健室だ。」

ドアを開け、踏ん張りながら進むと、ベットの上の人影から、呪いが噴出しているのが見えた。

「ダメだ。呪いが強力すぎる。あの人の命が危ない。」

颯太は浄化を試みるが、呪いにはじき返されてしまう。

「あの人が持っている呪具を壊さないと。」

力を振り絞りベットに近づき、ベットの人に手をかけた瞬間、

「マズイ。呪いに取り込まれた。」

颯太は呪具の中に取り込まれてしまった。

「この境界を壊さないと、呪いに吸収されてしまう。」

颯太がどんなに攻撃を仕掛けても、跳ね返されてしまうだけだった。

「嫌だ。呪いのせいで殺された祖母のような人を、もう誰一人、作りたくない。

頼む。じっちゃん。力を貸してくれ。」

颯太が祈ると、キロロが現れた。

「キロロ。来てくれたんだ。」

「ワシは颯太の相棒だと言ったじゃろう。」

キロロが精神統一すると、キロロの姿が光りはじめ、本来の姿に戻った。

キロロは白い竜の姿をしていた。

「キロロ、お前、竜神だったのか?。」

「ワシは颯太の先祖たちの守り神である竜神じゃ。少し待て。この呪いを浄化する。」

白い竜は空中でとぐろを巻き、カッと口を大きく開き、光る玉のようなものを発射した。

結界がガラスの様に砕け散った。

颯太は自分が保健室の床に倒れていることに気づき、立ち上がって、ベットに横たわっている女生徒を起こした。

「君、大丈夫?。」

「私、急に目の前が暗くなって、倒れてしまったんです。」

「今は?、大丈夫?。立てそうかな。」

「ええ、もう、大丈夫です。」

「君、今日、誰かに何かを渡された?。」

「はい、弟がどこかで綺麗な石を拾ったからと、くれました。これです。」

「それ、勾玉だね。悪いモノが集まるんだ。悪いけど、それ、僕にくれる?。警察に届けないと。」

「そうですか?。どうぞ。」

「それと、君、虐められてたんじゃない?。」

「はい。」

「僕も子供の頃、同級生や両親からも、無視されてたんだ。でも、今は友達が出来た。君もいつか友達ができるよ。」

「そうでしょうか?。」

「これ、僕の名刺。この会社に僕は時々しか行かないけど、皆良い人ばかりだ。よかったら、おいで。アルバイトもできるんだ。」

「そうですか。アルバイトをしたら、私、変われますかね?。」

「君が変わりたいなら変わればいいし、そのままだっていいんだ。きっと君の事を解ってくれる人が現れるよ。」

「ありがとう。」

「じゃあ、またね。」

「ええ、また会いたいです。」

正気に戻った救急隊員が、倒れていた人々に声をかけている。

颯太はいそいで、パトカーにもどった。

勾玉を警官に渡し、

「これが呪いの本体でした。浄化がされていますから、もう大丈夫です。」

パトカーは静かに警視庁に戻っていく。

颯太は、呪い殺される人がでないようにする。それが自分の役目なんだと、考えた。

オレはオレの役目をみつけたんだ。

なんだか、菊岡さんに無性に会いたかった。

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天才少年鬼塚博士はあやかし書店通いが止められない 高井希 @nozomitakai

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