第16話お前、俺の事好きなのか?
俺は、皇居の清々しい緑を横目に見ながら、霞が関のビルの谷間を歩いていき、桜田門にはいった。
「失礼します。鬼塚研究所から、納品に参りました。」
警視庁には各刑事課の課長や鑑識の課長、科捜研から数名が出席してM−グラスを受け渡した。
そして出席者全員で警察のバスに乗って、あやかしや怪異がよく集まる場所に向かいM−グラスを使って実際にあやかしや怪異を視た。
「うわ~。本当に視える。凄いぞ。」
「あまり北側に近寄らないでください。悪いあやかしがいます。彼には近寄らないで、目をそらしたほうがいいです。」
「悪いあやかしってナゼ判る?。目を合わせたり、近づくと何が起こるんだ?。」
「闇夜のような感じでゾッとするのが悪いあやかしです。目を合わせると悪い事がおきます。近づくと憑依されることがあります。」
「視えない場合も憑依されるのか?。」
「いえ、視えない場合は、ほとんど憑依されません。」
「ほとんど?。」
「ええ、たまによっぽど機嫌の悪いあやかしにあたると憑依されるようです。後、霊感があるのに理性が強くて、視えないようにしている人も危ないです。」
そんなこんなで、実際にM−グラスを使用してみて、1時間程後に警視庁に戻ってきた。
ーあ~、疲れた。でも?これで納品作業は終わりだな。ー
「では、失礼します。」
と、帰りかけた所を、
「少々お待ちください。副総監からお話しがあります。副総監室にご案内します。」
と、事務官に引き止められてしまった。
ー副総監?。それ、スゲー偉い人だろ?。俺に何の話?。勘弁してくれ。ー
事務官が副総監室に俺を通して言った。
「彼が、鬼塚博士ご推薦の霊能者です。」
ー副総監室スゲー。重厚。金かかってそう。副総監の顔コエー。なんで俺ここ呼ばれたの?。帰りてー。ー
「まあ、掛け給え。怪異の存在が鬼塚博士によって証明された今、警視庁も早急に怪異に
対応可能な部門を設立する事になった。ついては君の指導でその人選をしたい。急であるが、日本中の呪術師を集めてある。以前、怪異が起こった場所に向かい、実践で怪異に対処しかつ階級を見定めてくれ。」
「ちょっと待ってください。俺、イヤ、私はただあやかしが視えるだけで、呪術師ではありません。」
「ああ、そう聞いている。しかし、あやかしが視える事を証明されたのが、日本で君が最初なんだ。君は視ているだけでいい。怪異の被害を最小限に抑える為、協力を要請する。なんと言っても、鬼塚博士のお墨付きだからな。」
ー鬼塚のヤロー。覚えてろ。だが、怪異の被害を最小限に出来たら、嬉しいな。俺の婆ちゃんみたいに呪われて殺されるなんて事、誰にもあって欲しくないな。街に渦巻く悪い怪異の話も知らないフリして目を逸らしてた自分自身を反省した。今まで、正気の沙汰じゃなかったな。ー
「解りました。できる限り、協力します。」
私服の刑事に連れてこられたのは、東京都品川区南大井の鈴ヶ森刑場の跡地。
ーうわ~。いるいる。どす黒い怨霊、悪いあやかしがうじゃうじゃしている。ー
警察のバスから自称呪術師達がゾロゾロと降りてきた。
彼らは肩に番号を着けていた。
「では、1番のかたから、自分が退治できる怪異をまず、指差してから退治してください。」
俺は番号とチェックリストを持って採点していった。
視えていて、怪異にダメージ与えた点数をつけたんだ。
ー酷いな。視えないのが半数以上いる。だいたい、奇抜な服装をしている奴程、視えてもいない。ー
最後は90歳を超えているような老人が現れた。
スッと手を前に出したかと思うと、残っていた悪い怪異を一瞬で消し去った。
「あの、すみません。素晴らしい呪術ですね。」
俺は思わず声をかけていた。
「ありがとう。でも君、やってみる前からワシの力が解っとったろう?。」
「はい、これまで怪異が大人しくしていたのは、おじいさんが妖力で抑えていたからですよね。」
ー驚くことに、俺には参加している呪術師が、呪術をかける前からもうその呪術師の力量が目に見えていたんだ。呪術師に合ったのは初めてだったんだ。だから自分にそんな力があったなんて全く知らなかった。ー
「お前さん、あやかしや妖怪が好きか?。」
「ええ、良いあやかしや妖怪は好きです。あやかしの友達もいます。でも、悪いあやかしには近づきません。」
「そうか。お前さん、ワシについて学ばぬか?。きっと良い呪術師になれるぞ。」
俺は考える前に答えていた。
「お願いします。俺に教えてください。」
後から警察の人に聞いたら、
「あの老人は戦争前に警察に協力して怪異を退治していた有名な呪術師だよ。」
と、教えてくれた。
ー戦争前ってあのおじいさん何歳だよ。ー
鬼塚研究所にもどり、鬼塚に納品の報告をした。
「鬼塚、お前俺の事を警察になんて言ったんだ?。あやかしの専門家っていう鬼塚博士のお墨付きだって言われたぞ。」
「ああ、そう言ったね。」
「お前のおかげで呪術師の査定をさせられたんだぞ。」
「凄いね。さすが、颯太。」
「『さすが颯太。』じゃねーよ。呪術なんて俺、全然解らないからな。」
「それでどうなったの?。」
「呪術師のおじいさんに夜に呪術を学ぶ事になった。」
「それは良かったじゃないか。颯太が呪術師になれば良いあやかし達にとっても安心だろう。」
「お前、わざと警察に俺の事推薦しただろう?。」
「もちろん。颯太のお婆さんに起こった不幸から颯太は、逃げ出さなかっただろう。颯太が悪いあやかしや呪いに負けない強さを手に入れて、世界を変えてるって信じてたからね。」
「鬼塚に褒められると、なんだか気味が悪いな。」
「何故?。自分は颯太の事、理解してるさ。」
「でもいつもバカだとバカにするだろう?。」
「颯太は頭は悪いけどバカじゃないって知っているよ。」
「そうか?。それならいいが。」
「颯太は呪術の勉強が出来て良かったと思ってる?。」
「まあね。途中、副総監みたいな偉い人に話しかけられたり、呪術を見るのも初めてなのに採点させられたり、かなりパニクったけどな。今は鬼塚に感謝してる。」
「じゃあ、お礼して欲しいな。」
「お礼?。俺が出来ることならな。」
「颯太にギュッとハグして欲しいんだ。」
「なんで男同士でハグなんだ?。」
「颯太も知ってるだろう?。自分は両親にもハグされた記憶がないんだ。」
「解ったよ。一回だけだぞ。」
俺は鬼塚をギュッとハグした。
ー菊岡さんがドアを開けて入って来たらどう思うだろう?。ー
「もういいか?。」
「うん。」
「これで気が済んだのか?。」
「暖かくて気持ちよかった。なんだか疲れもとれた気がする。」
「それなら、ペットでも飼ってみろよ。いつでも抱っこできるし、癒やされるぞ。」
「自分にはペットの世話は無理かな?。」
「そうだな。職場で飼えば良いんじゃないか?。皆で世話すれば。」
「うーん、でも颯太のほうがいいかな?。また時々ハグしてくれる?。」
「お前、オレの事好きなのか?。」
半分冗談だったのに、
「好きだよ。」
と、鬼塚は平然と答えた。
「颯太とずっと一緒にいるために 、この会社を作ったし、アメリカ留学もしたんだ。言ってなかった?。」
「言ってねーよ。」
ー好きって、どういう好き?。さっきのハグって、そういう意味?。ー
俺は目の前が暗くなり、頭がグルグル回っているような気分だった。
「たぶん、雛鳥が初めてみた物を親だと思う感じらしい。颯太は、初めて自分を人間扱いしてくれたから。」
「そ、そうだよな。お前は俺の弟みたいなものだよな。そういう感情だろう?。」
「そうらしいね。たぶん。今は。」
「ちょっと待て。今も後もだ。」
「颯太とハグ、凄く心が安らいだ。今は、これで良いな。これからの関係は二人で創って行けばいいさ。」
「おい、何、自己完結してるんだ。これからだって今まで通りだからな。」
ー俺は菊岡さんの事が好きなんだ。男に対してそういう感情はない。そういえば、鬼塚は恋もしたこと無いんだろう。鬼塚の周りの女って菊岡さんとあやかし書店の婆ちゃんだけか?。ー
鬼塚の事はとりあえずそっとしておこう。
だって、鬼塚には常識も普通も通じない、ヤツは天才だからな。
鬼塚が俺に恋をするなんて考えられない。
天才って恋をするものなのか?。
まあ鬼塚に好きだと言われるのだって考えられなかったんだが。
とりあえず、朝から高校で授業を受け、授業後鬼塚研究所でバイト、その後呪術師の修行、時間の合間にあやかし書店に通う日々が続いた。
「颯太、呪術師になるんだって?」
「キロロ。まだ勉強してるだけで、呪術師になる覚悟が決まっていないんだ。」
「何故?。」
「俺、悪いあやかしや怪異を封印するのは仕方ないと思うけど。抹殺するのはイヤなんだ。」
「どうして?。」
「悪い事をした理由も知らないのに、抹殺するなんて。」
「怪異や悪霊には悪意が集まって生まれた物が多い。もともとが悪なんだ。そういう物がを人間の考えで判断してはいけないよ。」
「そうかも知れない。でも、俺には出来ないよ。」
「颯太は我々あやかしや妖怪達に近づき過ぎてるからな。抹殺したくなければしなくていいさ。だが、それには颯太が凄く強くならないと。自分が殺されないように、相手を殺さない様に手加減出来るように。」
「そうだね。誰かを守れるくらい強くなりたいな。」
「颯太なら、なれるさ。」
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