第3話友達になりたい
ー友達になるには呼び方が大事だよな。ー
俺は脚を踏ん張ってまっすぐにアイツを見ながら、言ってみた。
「俺の事、颯太ってよんでよ。お前、名前は?。」
「鬼塚。」
「それって苗字で名前じゃないだろう。まあ、いいや、俺たち友達になろうぜ。」
俺がこういうと鬼塚は俺の事をじっと見てなんか観察していた。
まるで鬼塚の目がエックス線になっていて、俺をレントゲン検査してるみたいだった。
それからは、友達になろうという俺の提案の答えはもらえないままだったが、鬼塚は俺にいろいろ命令するようになった。
「ねえ颯太、この荷物持って、僕の家の物置に運んで。」
「これ、結構重いな。鬼塚の家は確か大通りを1Kmくらいまっすぐに進んで、コンビニの角を右に曲がって100Mくらい行ったとこにある、赤い屋根の家だったよね。」
「そうだよ。この前自分を家まで送ってくれたろう。」
「いいよ。物置の中に入れておくんだね。鍵はかかってないの?。」
「物置に鍵はかかってないし、自分の両親も家に居ないから黙って置いてきてくれればいい。自分は後1時間くらい実験を続けるから。」
俺はスゲー重いな鬼塚の荷物を、ファイヤーボールみたいな太陽と、アスファルトの照り返しとの両方に攻撃されながら、顔と両手を真っ赤にしながら運んだ。
やっと鬼塚の家に着いた時は、服が汗でビッショリと濡れてしまっていた。
暑さと疲れで、ちょっとの間、日陰に座り込んで休憩した。
鬼塚の家の、駐車場の後ろに物置を見つけて、荷物を入れようとすると。
ワン!ワン!ワン!。
隣の犬が大騒ぎを始めた。
「こら!。他人の物置で何してるんだ!。ドロボー。」
隣のおじいさんが怒鳴って、俺のほうに詰め寄った。
ーうわ~、棒持ってる。殴られる?。ー
「違います。鬼塚に頼まれて。これを物置に置きに来たんです。」
「嘘をつくな!。警察を呼ぶぞ。」
ー怖えー、でも、ちゃんと言わないと。ー
「本当です。俺、今まで河原で鬼塚と一緒だったんです。帰るついでに、これを鬼塚の家の物置に入れておくように頼まれて。」
「本当に?。鬼塚さんちの天才坊やの知り合い?。」
「友達です。」
「友達?。年も違うし。いや、もしかしたら君も天才?。全然、そうは見えないけど。」
「俺は勉強出来ないし、鬼塚より三つも上だけど、あいつ危なっかしいから友達になりました。」
「そうだったんだ。ごめんね、ドロボーなんて言って。でも凄いな、これ、河原から1人で、運んできたの?。10Kgくらいあるよ、重かったろう。本当だ手が真っ赤で豆ができてる。」
ー結局、誤解は解けたけど、ドロボーに間違えられちゃった。その上、重い荷物のせいで手が豆だらけになっちゃった。ー
次の日、
「颯太、これで昼食用の飲み物と食べ物買ってきて。」
「いいよ。鬼塚。なにがいい?。」
「何でもいい。チップスとジュースでいいや。」
「ダメだよ。ちゃんとした食事をしろよ。そうだ、俺の好物を買って来てやるよ。」
俺はトコトコと歩いて、駅通りの商店街に向かった。
殆どの店のシャッターが閉めてあったが、何件かの店はかろうじて営業を続けていた。
そのうちの一件はお婆さんがやっている駄菓子屋で、そこではお婆さん手作りのおでんと赤飯も置いてあった。
その店でおでんと赤飯を買い、数軒隣の店でたい焼きを買って来て鬼塚に渡した。
「これ、美味しい。ダイコンなんて初めて食べたけど、こんなに美味しいんだ。卵もいつものゆで卵と全然違う。それにしても、赤飯なんて普段でも食べるんだね。まあ、悪くないな。」
「お前、いつも菓子パンとかチップスばっか食べてるだろう。ちゃんとしたメシを食べないと、体壊すし、頭にも悪いんだぞ。」
「颯太のくせに、言うな。ちゃんと食べても颯太は頭悪いだろう?。」
「ほっとけ。それは別の問題だろ。お前、いつも何食べてるんだ?。」
「朝は、キッチンに卵とトーストとサラダが置いてあるからそれを食べる。昼はコンビニのおむすびか麺類。夜は家でピザとかの宅配だな。颯太は食事が頭の良さに関係するって何処で知ったんだ?。」
「V−チューバーが言ってたんだ。」
「一人の人間が言ってた事を盲目的に信用するのは頭が悪い証拠だよ。」
「ほっといてくれ。それでも、野菜と肉とご飯を食べるように気をつけろ。」
また次の日、
「颯太、研究データーに使いたいから、なるべく頭の悪そうな大人にこのメモの質問をして。」
鬼塚のメモにはこう書いてあった。
1.空気が読めないですか?。
2.自分で考えないですか?。
3.他力本願ですか?。
4.被害者意識がありますか?。
5.すぐに感情的になりますか?。
しばらく歩いていると、頭が悪そうなおじさんが、肩で風を切りながら歩いてきた。
「すみません。おじさん、質問していいですか?。」
「どうした?。言ってみろ。」
おじさんは、腕組みしながら低い声で促した。
俺が鬼塚のメモを読むと、
「バカにしてるのか?坊主!。」
と、大声で怒鳴られて頭をぶん殴られた。
しばらくすると、頭の悪そうな女子高生が、スマホを使いながら来たので同じ質問をすると、無言でビンタされた。
「鬼塚。この質問すると、殴られたり、ビンタされたりするんだけど。」
「そうなんだ。やっぱり、頭が悪いとすぐに感情的になって暴力にうったえるんだな。」
「お前、それを知ってどうすんの?。」
「別に?、ただ、どうなるかと思っただけ。」
「俺、そんな事の為に殴られたのか?。」
頭や頬がまだジンジンと痛かった。
また次の日、
「颯太、薬局からこのメモの薬品買ってきて。」
俺は大通りの薬局に行って、メモを見せた。
「少々お待ちください。」
随分時間がかかると思ったら、店員が警官を連れてきた。
「この子です。塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、 硝酸アンモニウムを買いたいって言う子。」
「君、名前は?。何年生?。これ何に使うの?。それとも誰かに買ってくるように頼まれた?。」
警官に詰問され、長々と凄く怒られた。
俺は、頭をうなだれて、縮こまってお説教をやり過ごした。
また次の日、
「颯太、この翼をつけて屋根の上から飛び降りて。」
「大丈夫かよ。落ちたら、俺、死ぬぞ。」
さすがに、これはマズイだろうと、俺だって解ったよ。
結局、鬼塚が作った翼をつけて屋根からとびおりる事なった。
数分間はしっかりと空飛んでいて、俺は最高の気分だったのに、いきなり失速して落ちた。
落ちたのを見ていた人が救急車を呼んで、俺は病院に運ばれた。
捻挫だった。
「 一体、どうしたの?。」
手当てする前に、看護婦さんに詰問された。
「屋根から飛び降りたんだ。」
「バカじゃないの?。打ちどころが悪ければ大怪我になってたかもしれないわ。2度とこんな事をしないように。」
医者と看護婦さんの二人は散々怒らりながら手当てしてくれた。
捻挫して包帯を巻いたオレを見て、さすがに鬼塚も反省したようだった。
「大丈夫?。でも、発明に犠牲はつきものだ。君の犠牲を自分はきっと無駄にしないから。」
「俺を死んだみたいに言うな!。天才なら犠牲のない発明をして見せろ!。」
俺が叫ぶと、鬼塚は腕組みしながら、片手を顎にあてながら頷いて言った。
「そうか、犠牲のない発明か。自分になら、出来るかもしれない。颯太は面白いな。うちの両親とか寄ってくる大人たちとは違う。」
鬼塚が俺と初めて普通の会話をした瞬間だった。
後で近所の人に聞いた話では、鬼塚の両親は天才のわが子の扱い方が解らず、二人共仕事に明け暮れ、鬼塚には金だけを与えているらしい。
そのうえ、鬼塚の天才ぶりをどこからか聞きつけた大人たちが、ゆくゆくは自分の会社で発明をさせたいと彼の家に押しかけてきているらしい。
ー鬼塚が心がないみたいに見えるのは、誰も鬼塚を愛してくれないからかもしれない。俺も爺ちゃんたちがいなかったら、どうなっていたか解らないな。ー
「鬼塚、お前は天才で頭は最高だけど、心は空っぽだ、何とかしないと、素晴らしい発明品ができないぞ。」
「颯太が無理して、難しいことを言おうとしているな。なぜ自分に素晴らしい発明が出来ないんだ?。発明について、颯太になにが解る?。」
「俺が思うに、素晴らしい発明っていうのは、人の為になる発明だ。人の心が解らなかったら、人の為にならない発明をしてしまうだろう。例えば、原爆とかみたいに。」
「珍しく颯太がまともなことを言ってるな。偉いぞ。」
鬼塚が初めて俺を褒めた。
「俺も爺ちゃんとじっちゃんがいなかったら、おかしくなってたのかもしれないからな。」
「いや。颯太は、今でも十分、おかしいよ。一体、何が見えるんだ?。」
「え?、気づいてたのか。鬼塚は他人に興味ないから気が付かないと思ってた。」
「天才をバカにするなよ。それで、何が見えるんだ。颯太。」
「もののけ、妖怪、幽霊、つくもがみ等、いろいろ視える、でも鬼塚はそんなもの信じないだろう?。非科学的だものな。」
「颯太が視えると言うなら、信じるよ。科学でも解らないことはまだまだたくさんあるし。」
それで俺は鬼塚に、俺の今まで視てきたこと、父方の爺ちゃんが視える体質なことなど、いろいろ話した。
本当は爺ちゃんに、誰にも視える事を言うなって言われてたけど、こいつになら大丈夫だって思っちゃったんだ。
鬼塚はまた、エックス線みたいな目つきで俺を見て、
「相変わらず颯太は面白い。」
と、言っていたが、目がちょっと怖かった。
ーもののけとかが見えるなんて、やっぱり信じられないのかな?。それで怖い目でみてるのか。ー
と、思ってた。
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