第12話颯太の祖母の死の真相

もうすぐ中学生活も終わる。

中1まで俺は成績が悪かった。

「俺、バカだからしょうがないよ。」

中1の成績を鬼塚に聞かれて、自嘲ぎみに答えると、

「颯太、自分の事をバカって言うと、本当のバカになるんだぞ。颯太は、成績が上がるように努力してるのか?。自分は天才だけど、いつだって新しい事を吸収しようと努力している。天才だから努力が簡単に報われるんだ。でも、それは努力なしに何でも出来るって事じゃない。颯太は凡人だけど、バカじゃないだろう。天才だって努力するんだ。凡人はもっと努力しないと成果が出ないだろう。でもそれは、諦める理由じゃない。」

と、鬼塚に説教された。

それから俺は少しずつ、自分にあった勉強の方法を探し、だんだん勉強するのが面白くなって、成績も上がった。

おかげで俺は希望する高校に合格できた。

菊岡さんは鬼塚の会社に正社員として就職しながら、オンラインで勉強して高等学校卒業程度認定試験(旧大検)をとる予定らしい。

その後はやはりオンラインで大学卒業の資格も取りたいと言っている。

オレは、近くの高校に通いながら、鬼塚の会社でアルバイトを続ける。

鬼塚には菊岡さんと一緒に正社員になればいいと言われていた。

しかし、数ヶ月前に、じっちゃんがやっと退院出来たことでもあるし、探偵事務所の仕事も手伝いたかったのでその申し出は断った。

鬼塚の会社には菊岡さん以外にも正社員が増えた。

鬼塚の助手に二人と、経理に1人。

鬼塚は世界中から発明依頼が舞い込んで、忙しいのだが、相変わらずオレを誘ってのあやかし書店通いがやめられない。

まあ、趣味など持たない鬼塚にしてみれば

あやかし書店通いだけが息抜きになっていると思う。

「鬼塚、お前、何であやかしも見えないくせに、ここに来るのが好きなんだよ?。」

「ここでは五感、いや第六感までが解放されるんだ。神経がリフレッシュするようだよ。」

「そうか。その上、あやかし書店の婆ちゃんの作る愛情がこもった手作りの軽食が、お前の健康を保っていると思うぜ。発明に夢中だとお前、食事を取らなくなくなるだろう。」

「いや、発明中でも、携行保存食やナッツ類は食べているが?。」

「それは、食事って言わないんだよ。お前、金持ちなんだから金使えよ。」

「研究費以外の、お金の使い方が分からなくなって。そういえば、颯太、明日は高校の入学式だろう?。」

「ああ、明日はバイト、休ませてくれ。入学式の後、爺ちゃんの墓参りに行くつもりなんだ。」

「颯太の爺ちゃんも、視える人だったよね。」

「うん、オレも視えるのが解ってから、爺ちゃんオレに謝ってばかりだった。」

「視えることで大変な目にあった事があるのかな?。」

「 多分そうだけど、オレがその話を聞ける年になる前に爺ちゃんが死んじゃったから、何があったのかオレは知らないんだ。何で謝られたのかなって、今も時々思うよ。」

そんな話をした翌日、入学式を済ませて、制服のまま爺ちゃんの墓参りに来た。

墓とその周りの掃除を済ませて、

「爺ちゃん、オレ、今日から高校生になった。バイトで生活費も何とか出来てる。好きな娘も出来たんだ。その娘と将来結婚したいと思ってる。両親とは相変わらず疎遠だけど、友達もいるし、じっちゃんやあやかし書店の婆ちゃんも良くしてくれる。オレの事は心配しないで、そっちで楽しんでくれ。」

後ろに気配を感じて振り向いた、

「父さん。何でこんな所に。」

「颯太。父さんだって墓参りにくらい来るさ。自分の両親が入ってるんだから。制服似合ってるよ。高校入学おめでとう。ちょっと、話さないか?。時間はあるんだろう?。」

オレは渋々父さんと近くの寂れた喫茶店に入った。

「何の話?。」

「お前のお婆さん、つまり私の母親の死んだ理由だ。お前にはまだ話してなかった。もう、お前も高校生だ、こんな話を聞いても、自分で消化出来るようになっただろう。」

そして父さんは淡々と話始めた。

「 あれは、私が6歳の時だった。小学校に入学する為にランドセルを買ってもらって、大喜びで家に帰ってくると、玄関のドアの外に箱が置いてあった。留守中に誰か知り合いがおいて行ったのかと思った母親は、箱を居間に持って行った。父親は仕事で遅く帰る予定だったから、二人で夕食を食べて、私はすぐに眠ってしまった。1人になった母親は、居間に置いた箱の事を思い出し、それを開けたらしい。中には古い絵画が入っていたそうだ。だがそれは、ただの絵画じゃあなく、呪いの絵画だったそうだ。悪いもののけがその絵画についていたんだ。父親の知り合いでやはり怪異が視える男がいて、その男が持ってきたらしい。」

「どうして、そんなことを?。」

「自分と同じで視える体質なのに、父親が母親と結婚して幸せそうだったことを妬んでいたらしい。」

「たったそんなことで?」

「母親は翌朝帰宅した父親によって居間で亡くなっている所を発見された。父親は警察にすぐに通報した。解剖の結果、母親はショック死だったそうだ。」

「悪いもののけがついた呪いの絵画はどうなったの?。」

「父親は絵画が原因だとすぐに察して、絵画は処分したそうだ。」

「それが原因で、爺ちゃんと父さんは疎遠になったの?。」

「ああ、母親がショック死なんていう不審死をしたことで、私は祖母に引き取られることになった。」

「爺ちゃんはそれを止めなかったんだ。」

「ああ、悪いもののけがついた呪いの絵画を置いた男の事を、友人だと思っていたらしいし、そいつのせいで自分の妻が殺された。視えるからこんな事になるんだと、視える自分を自己嫌悪していたらしい。」

「父さんは爺ちゃんの事なのに、他人事みたいに言うんだな。」

「そうだな。実は、私はあの夜夢を見た。真っ黒でおどろおどろしい邪悪な何かが、自分に迫ってくる夢だった。そして目を覚ますと母親が亡くなっていた。それも、恐怖に顔を歪めたまま。あやかしだの怪異だの、懲り懲りだと思った。だから視える自分の父親から逃げ出したんだ。お前が視えるって解ってから、又、あんな事が起こるんじゃないかと気が気でなかった。自分の事で精一杯だったんだ。すまなかった。お前からも逃げ出したんだ。」

「謝らなくていいよ。あやかしとか妖怪とか、理解できないものに恐怖を覚えるのは当たり前さ。それが視える人間も恐怖の対象になる。特に、父さんは怪異のせいで母親を失ってるんだ。そうなるさ。爺ちゃんはいつもオレに、『俺のせいで視える側になっちまって、すまない。』って、いつも謝ってた。でもオレ、視えるせいで不幸にならないように精一杯気をつけるよ。だから、父さんも気にしなくていい。あやかし書店っていうところの婆ちゃんが、オレの魔除けをしっかりやってくれてる。その婆ちゃんが『悪い人間からは守れんから、そいつは自分でどうにかせにゃならん。気を付けや。』っていつも言ってる意味も今解ったよ。」

俺達はそのまま別れた。

でも、両親に対するわだかまりが少し減った様な気がした。

恐怖っていうのは本能だ。

自分で恐怖を克服するのは難しい。

俺は今の所悪いあやかし達に被害を受けてはいない。

俺は自分が思っているより、ラッキーなんだろう。

それかあやかし書店の婆ちゃんの魔除けのおかげだろう。

家に帰ってくると菊岡さんが待っていた。

「あなたの高校入学祝いにケーキを買ってきたの。」

「ありがとう。入ってくれ。じっちゃんは出かけてるけどね。」

「何かあったの?。颯太、様子が変よ。」

「さすが菊岡さん、鋭い。爺ちゃんの墓参りで父さんに会って、おばあちゃんの死が、視える人間の逆恨みで呪われたからだって教えられた。」

「そうなの、辛かったでしょう?。」

「いや、おばあちゃんとはあった事もないから、実感がわかないけど。父さんが爺ちゃんとオレを遠ざかる理由が解ったから。そうだったのかって。」

「納得できた?。」

「そう、納得できるかもって思った。母親が悪いもののけに呪われて死んだら、そういうもの、つまり怪異とかあやかしとかが視えるなんていう人間から逃げ出したいだろうと思った。」

「それで?。これからどうしようと思うの?。」

「今までと同じ。オレがあやかしが視える事実は変わらないんだから、今まで通り、あやかし書店で魔除けをしてもらって、普通に生活する。おばあちゃんの件は知識として活かす。」

「どうやって?。」

「もし俺達が結婚したら、誰かから送られたものは、最初にオレが確認する。くらいかな?。」

「そうね、それで良いんじゃないかな?。空から何か落ちてくるかもしれないって心配して生きている訳にいかないものね。」

菊岡さんは微笑んで、俺の手を握ってくれた。

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