第11話鬼塚社長の独り言

天才少年鬼塚社長は、珍しく過去の事を思い返していた。

「いま、空に飛んでったの、あれ、お前の仕業?。あれ、何?。」

5歳の時、間の抜けた子供に実験の邪魔をされた。

自分が実験について説明してやると、

「お前って、いわゆる天才ってやつ?。」

なんて当たり前の事を聞いてきた。

「まあね、みんな僕を天才だっていうよ。」

「俺の事、颯太ってよんでよ、お前、名前は?。」

「鬼塚。」

「それって苗字で名前じゃないだろう。まあ、いいや、俺たち友達になろうぜ。」

なんて言い出した。

ーまったく、自分には友達なんか必要ないのに。

まあ使いっ走りくらいには使えるかな。ー

颯太はいわれる通り何でもした、まったく犬みたいだと思ってた。

ところが、ある日颯太は、自分の発明した翼をつけて屋根から飛び降りると、数分後に落ちて足を捻挫した。

まだ燃料の配合に改善の余地があるようだった。

颯太の怪我が、ちょっと可哀想になってこう言った。

「大丈夫?。でも、発明に犠牲はつきものだ。君の犠牲を自分はきっと無駄にしないから。」

その言葉に、颯太は怒りだした。

「俺を死んだみたいに言うな!。天才なら犠牲のない発明をして見せろ!。」

この言葉で、自分は初めて颯太を見直した。

「そうか、犠牲のない発明か。自分になら、出来るかもしれない。颯太は面白いな。うちの両親とか寄ってくる大人たちとは違う。」

「鬼塚、お前は天才で頭は最高だけど、心は空っぽだ、何とかしないと、素晴らしい発明品ができないぞ。」

颯太が無理して、難しいことを言おうとしているのが自分には可笑しかった。

ー自分は心が空っぽで、颯太は頭が空っぽだよ。ー

「俺が思うに、素晴らしい発明っていうのは、人の為になる発明だ。人の心が解らなかったら、人の為にならない発明をしてしまうだろう。」

ああ、そうか。

颯太は他人の為に何かしようと出来るんだ。

他人に傷つけられてばかりのくせに。

それからは颯太が側にいると何だかフワフワと気持ちが良くなってきた。

これってなんなんだ?

ある日、颯太は秘密を自分に話してくれた。

颯太はあやかしや、もののけ等が視えるそうだ。

颯太が今まで視てきたこと、父方の爺ちゃんが視える体質なことなど、いろいろ話してくれた。

自分は、凄く嬉しかった。

颯太と自分だけの秘密が出来たんだと思った。

それなのに、颯太は自分には何も言わないけれど、何処かに通っているみたいだ。

何処に行っているんだろう。

ー自分は颯太のことなら何でも知っていたいんだ。ー

なぜ、颯太の事がこんなに気になるんだろう。

自分でも不思議だった。

今まで他人や両親にだって興味を持ったことがなかったのに。

自分は颯太にGPS発信機をつけて探った。

「颯太、君、家に帰る前に何処かで寄り道してるよね。そこで何してるの?。」

自分は颯太に詰め寄った。

「颯太がなんか隠し事してるから、暴きたくなるんだ。」

「お前なあ。彼女かよ。」

他人の事が気になるなんて、生まれてはじめてだった。

いや、自分は両親が育児放棄していることさえ気にしたことはなかったんだ。

結局、颯太はあやかし書店に自分を連れてきてくれてくれた。

「婆ちゃん、俺、友達を連れてきた。一人だけ連れてきていいって言ったよな。」

「ああ、いらっしゃい。颯太の友達もよく来たね。」

その婆ちゃんはニコニコして自分達を迎えてくれた。

あやかし書店は最高に居心地が良かった。

颯太と一緒にいられたし、颯太があやかしと話している様子も観察出来た。

もちろん、自分にはあやかしが見えないので颯太が宙に向かって話している様にしか見えなかったが。

さらに、婆ちゃんの手作り料理が自分の心を掴んだ。

今までは栄養を取る為だけに食事をとっていたが、婆ちゃんの食事は優しく美味だった。

その上、颯太と二人で、同じものを食べるのが、不思議と幸せな気持ちだった。

一生颯太と一緒にいたいと思った。

「一生他人と一緒にいるのはどういう状況なんだろう?。」

と、叔父に聞いてみた。

「そうだな、同じ会社に就職した時や、誰かと結婚して同居したときがそういう状況だろうね。」

そうか、颯太と一緒に仕事をすれば一緒にいられる。

だが、颯太に自分の発明助手になる能力はない。

そうだ、自分が会社を作って颯太に出来る程度の仕事をさせれば良いんだ。

颯太と離れている期間を最短にする為に選んだのが、アメリカで博士となって日本で会社を作る事だった。

「母親の叔父が僕のアメリカ留学を手配してくれた。明日、旅立つ。あやかし書店に来るのも今日が最後だ。婆ちゃん、美味しいおやつを今までありがとう。颯太、さよなら。」

自分はこの時から目標に向かって最短最速で進む事を決めた。

アメリカにいても颯太の事は何でもわかった。

インターネットの普及で、ちょっとハッキングをすればプライバシーなどないも同然さ。

大学時代に自分でAIを作成し、自分の気持ちについてAIに聞いてみた。

颯太に対する自分の気持が、何なのか知りたかった。

AIの答えはこうだった。

ー今は雛鳥が初めて目にしたものを親と認識している延長上にありますが、今後その気持がBLに傾く可能性があります。ー

親と認識?、まあ、その可能性はある。

BL?ボーイズラブか?。

自分が颯太に恋をする?。

自分にそんな感情があるんだろうか?。

まあいい、その時になったら考えよう。

今はまだ可能性があると言うだけだ。

遂に颯太と再会の時が来た。

「やあ、久しぶり。仕事、いや、アルバイトを依頼に来た。長期契約を結びたいので、我が社に来て契約書にサインしてくれ。」

颯太がかなり驚いて混乱しているのが心地よかった。

「自分にはまだ、あやかし書店に行く資格があるのかな?。」

と、思いきって切り出した。

「もちろんさ、鬼塚は生涯あやかし書店の客で、いつだって歓迎されるさ。」

と、颯太は答えてくれた。

心底嬉しかった。

颯太が自分の会社を訪れ、菊岡さんに合った。

「彼女はお前の秘書なのか?。それにしては若そうだが。」

颯太が菊岡さんについて尋ねてきた。

思った通りだった。

菊岡さんを雇ったのは、わざとではない。

菊岡さんの真面目さ、過去、才能を評価してのことだった。

だが密かに感じていた、彼女は颯太の好みだと。

菊岡さんを我が社に繋ぎ止めておけば、颯太も我が社にいる可能性が増えるのではないだろうかと。

嫉妬は?。

特にはない。

それよりも、颯太が自分の会社に長く勤め、自分と関わり、一緒にあやかし書店に行く機会が増える事が嬉しかった。

颯太が笑っているのを見るのが好きだ。

颯太がいろんな表情をするのを見るのが嬉しい。

颯太が恋するのが自分で無いことも理解している。

だから、自分が認めている菊岡さんに、颯太が恋をして、その恋の手伝いを自分がするのは、問題ないと考えている。

自分はただ、颯太と一緒にいたいだけ。

これも恋って言うんだろうか?。

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