電光朝露

三鹿ショート

電光朝露

 どれほど屈強な人間だったとしても、彼女たちが平手で打つだけで、一瞬にしてその生命が散ることとなる。

 彼女たちが手を出す人間については、明確な基準が存在するわけではないが、怒りを抱かせるべきではないという点では、誰であろうとも納得するだろう。

 だが、最も大きな問題は、彼女たちと普通の人間について、見分けがつかないということである。

 普通の人間と同じように感情を表現し、普通の人間と同じように会話し、普通の人間と同じように怪我も負う。

 誰が彼女たちの仲間であるのかが不明のために、人々は他者に対して横暴に振る舞うことはなくなっていた。

 一見すると、平和な世界のようだが、彼女たち以外の普通の人間にしてみれば、常に怯えて過ごすことになっているために、息苦しいことこの上なかった。

 しかし、私は異なっている。

 何故なら、交際している相手から、誰が仲間であるのかを教わっているからだ。

 ゆえに、私は他の人間たちのように怯えることなく、日々を過ごすことができている。

 他者と比べれば、晴れやかな気分で毎日を生きていたのだ。


***


 彼女が私を恋人として選んだのは、人付き合いが苦手な彼女に手を差し伸べたことが理由であるらしい。

 人間の生命を一瞬にして奪うことができるほどの実力を有しているにも関わらず、彼女はその力で他者を従わせることはなかった。

 いわく、恐怖による繋がりなど、互いに安心することができないからだということだった。

 だからこそ、彼女は自分の正体を隠し、友人を作ろうと努力をしていたのだが、生来の気の弱さが影響し、声をかけることすらできなかった。

 そんな中で、私が接触してきてくれたことが嬉しかったために、私と共に生きることを選んだということだったのだが、私は彼女のことを気遣っていたわけではない。

 私と同じように孤立している彼女ならば、親しくなることができるだろうと考えたからである。

 私もまた、彼女のように他者との交流が苦手だが、友人を欲していたのだ。

 まさか彼女が強大な存在だとは考えていなかったために、その正体を知ったとき、私は驚きを隠すことができなかった。

 彼女は己の力を行使するつもりはなく、普通の人間として生きることを決めていたが、それでも、怒りを抱かせてはならないと、私は決意した。

 だが、彼女と過ごす時間が長くなるほどに、彼女が強大な力の持ち主だということを知りながらも、気楽にやり取りするようになっていった。

 慣れというものは、恐ろしいものである。


***


 当然の帰結というべきか、私と彼女は、やがて結婚した。

 互いに互いを裏切ることなく、愛情を深めていき、娘も誕生した。

 私だけではなく、彼女自身も強大な力の持ち主だということを忘れているのではないかと思うほどに平穏な生活を送っていたが、終わりは突然、訪れた。

 我儘な娘を叱った際、娘は涙を流しながら、私を殴ろうとしてきた。

 娘の攻撃など高が知れていると思っていたが、それは間違いだった。

 娘が私の胸を殴った瞬間、私は呼吸することができなくなった。

 見れば、娘が殴った場所が、消えていたのである。

 驚いているのは私だけではなく、娘もまた、目を見開いていた。

 其処で姿を現した彼女は、私の状態を目にすると、叫び声をあげた。

 薄れていく意識の中で、私は当然の事実に気が付いた。

 彼女が強大な存在ならば、その娘もまた同じような存在であることは、考えれば分かることだったのだ。

 そもそも、何故女性ばかりが、そのような存在であるのか。

 それはおそらく、男性による力の支配から逃れるために、進化したのだろう。

 これまでの愚かな行為の数々を思えば、そのような進化をしたとしても、不思議ではないのだ。

 しかし、このような結末を迎えるなど、誰が想像しただろうか。

 自分の娘ですら満足に教育することもできないのならば、このような進化は、間違っていると言ったとしても、責められるものではない。

 それならば、自分の身体一つだけで、次の世代を生み出すことができるように進化するべきだろう。

 親も子どもも強大な存在同士であるために、このような事故が発生することもなくなるに違いない。

 だが、其処まで考えたところで、彼女たちが理性的な存在であるということにも気が付いた。

 彼女たちは強大な力を有しながらも、この世界を支配しようとはせず、普通の人間として振る舞っているのだ。

 自身の力に酔って行動することがないために、彼女たちはこの世界において、最も優れた存在だと言うことができるだろう。

 だからといって、このような私の生命活動の終焉は、納得することができるようなものではないのだが。

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電光朝露 三鹿ショート @mijikashort

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