第5話 身代わり

「洋ちゃん。どう思う?」

 隆は洋一の考えをいた。

「盗ったのがワシやのうて、爺さん、残念やったなあ。けど、清美がまさか…」


 洋一はいたたまれなくなってきた。

 清美は妹の面倒を見ながら、苦労している。洋一も父親を亡くしているので、ひとり親のつらさは身に染みている。

(ワシがやったことにしてもええ)

 密かに決心した。


 誰かがきたのか、和子が玄関に出た。

「おるよ。入りなよ」

 清美だった。洋一は清美の顔を見ることができなかった。意外なことに、清美は明るかった。

「富江おばちゃん。昨日はありがとな」

 紙の袋を出した。

「ええんよ。自分らで食べな」

 富江は袋を押し返した。

「夕べ、父ちゃんに怒られてな。『卵借りに行くなんて恥ずかしいことすんな。明日買うてきて返しとけ』って」


 洋一は一刻も早く、隆に知らせたかった。

「鶏やって、年取ったら、卵産まん日もあるやろ」

 権蔵爺さんに言ったつもりだった。

「何ブツブツ言うとるの、洋一」

 富江が清美に、何かおかずを持たせている。

「和子と一緒に、清美ちゃん送っておやり」


 3人で暗い道を歩いた。敏夫さん家の前を通ると、テレビの歌番組が流れていた。敏夫さんが憧れ、同じ髪型にしている歌手だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

続 村の少年探偵 その13 ヤングケアラー 山谷麻也 @mk1624

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ