大城さんはオタクに優しいギャルになりたい!!

松谷栗松

第1話 光差し込む太陽

「行ってきます!」


高校に入学してから数週間、少し環境にも慣れてきた今日この頃、今日から部活の本格活動が始まる。中学時代に入っていた美術部は自分を部長として慕ってくれていた後輩や、可愛がってくれた先輩もいた。


しかし高校はどうだろうか自分に興味を持ってくれる先輩も、自分が先輩になって可愛がれる後輩が出来るのか。事前にあった仮入部期間は新たなことにチャレンジしたいと謎の向上心で運動部にいたけど、やっぱり自分には運動部は無理だった。


「やっぱり美術部に入るか…。」


学校が見えてきた、期待と不安が入り混じっても不安が勝ってしまう。

ザワザワしている教室に入る。自分の席は最悪なことに真ん中なので、色んな話が聞こえる。嫌いな先生の話、ゲームの話、放課後一緒にプリクラを撮りに行く話、昨日やってたアニメの話。

私は人と関わるのは最低限にしたい、挨拶とか授業の一環の班の意見交換タイムほんとに最低限だ。それ以上相手に踏み込むつもりはない。



昔、唯一友達だった子から言われたことがある。

「まゆちゃんは人との壁作りすぎ!まゆちゃんと仲良くなりたい子もいるかも知れないのに!」と

善意なんだろうが、あまり嘘をつかないでほしいと思ってしまった。


「ねぇ聞いた?最近2年生にめちゃ可愛いギャルが来たらしいよ…笑」


ギャル?そんな人がこの学校に存在するのか…。絶対自分とは縁のない存在だわ、でもましてや2年生一生お目にかかることはないだろう。


1日の授業が終わり放課後になった、部室に一人で向かう。顧問が部活の説明を終え、やっと自由になれると思った頃、「それじゃあ新入り1年、一人ずつ自己紹介お願いしま〜す。」

始まってしまった、いちばん苦手なこの時間。ついに自分の番になり、

「それじゃあ谷崎真弓さん立って自己紹介お願いします。」

震える足で立ち上がり、深く深呼吸した。

(いける…頑張れ谷崎真弓…!)

「1年3組谷崎真弓です。趣味はアニメ鑑賞です、よろしくお願いします…。」


自分を見る周りの視線で身体が震え上がってしまった、だが終わったあとの拍手で、一気に肩の荷が下りる気がした。

そして続々と1年生が自己紹介を終え、最後の生徒になった。やっと自由になれると思った。

「1年生は入部1日目なので、自分を表現できる絵を自由に描いてください。それを今年の文化祭で展示します。」

顧問がそう言うと、前の席にいた同期が肩を落とした。もちろん私もだ。


中学校の美術部は自由過ぎた、いつもどんちゃん騒ぎしていて、スマホや漫画を持ち込む生徒もいた。部長としては注意したいところだが、私も例外では無かった、なので人のことは言えないので注意できなかった。

「自分を表現か…。」

周りの同期は徐々に筆を進めており、構図が上手い生徒、色使いが綺麗な生徒。負けてられない、でも自分がどんな人間かは分からない、自分の人間としての色や個性が無さ過ぎなのである。


キャンバスは未だに白である、いっそ黒で塗りつぶしてしまおうか、その時、部室の入口から騒ぐ声が聞こえた。


「ねぇ!!ここに1年のぽぽちいる?!」


2、3人を連れた女がそう言った、あまりにも騒がしいので顧問が女達に声をかけた。

「すみません、他の生徒の迷惑になりますので、お静かに願います。御用は何でしょうか?」

「ごめんなさい!!1年生の加藤ほみってここにいます?確か美術部に入部したって聞いて!」


そんな子はここにはいないと顧問が言うと、後ろにいた女達は不満に思ったのか帰ってしまったが、前にいた女は

「そうですか!私まだ部活入ってなくて!せっかくなんでちょっとだけ見学させてもらっていいですか?」

顧問が引き気味に許可を取ると、空いている机にキーホルダーがジャラジャラ付いている鞄をドサッと置き、先輩後輩関係なく絡みに行った。

「ねぇねぇ!これどうやって描いてるの?超上手いじゃん!てか一緒に描きたい!」

この人には人見知りという概念がないのか、金髪ロングにピンクメッシュ、ゴリゴリギャルメイク、平成ギャルを匂わせるカーディガンをうまく使った着こなし、長すぎるルーズソックス、

そしてそんな派手な格好をしても埋もれない綺麗な顔。

間違い無い、この人が朝噂になってたギャルだ、絶対にこっちに来ないでほしい。だがあまりもの唐突な登場にぼーっと彼女を見ていたら、こちらに気づいてしまった。こちらに気づきニコッと笑って自分のいる方向に足を向ける。

「やばい」

焦ってキャンバスに目を向ける、思わずさっきの笑顔にときめきそうになったがそれは気の所為だ、きっと。

足音は止まり、ふと彼女を見ると

「深いなぁ…。」

眉間にしわを寄せ、そう言った。

「あの…まだなに描いたらいいか分からなくて、別に特別なことは無いです…。」

「え?マジ?なんかごめん!」

申し訳無さそうにする彼女を大丈夫ですとなだめる、しかし彼女は急にひらめいたような顔をしこう言った。


「部活終わったら一緒に自分探しの旅に出ようよ!」

「…え?」

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大城さんはオタクに優しいギャルになりたい!! 松谷栗松 @matutani

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