【黒歴史】カメムシと茶葉と透明ポット
竹神チエ
あの一度きりなんです
黒歴史というには迫力に欠け、誰でも経験してそうな話しか持ち合わせておりませんが、せっかくのイベントに参加したいと思う今日この頃の春ですので、黒歴史を捏造、いや大げさに語ってみようと思います。
恥ずかしい話というのは生きていればあるものでして、例えば「値札が付いたままの服を着て外出する」や「服を裏返しに着て外出する」というものがあります。
皆さんご経験があるでしょう。あるよね?ないの?
——あれは図書館にいる時でした。
突然肩をたたかれて、ぐいっと首後ろあたりが引っ張られました。あらやだ、痴漢。当時のわたしは高校生くらいでした。
びっくりしながら後ろを振り返ると、一緒に来ていた弟(小学生)がいました。
「これ、これっ」
笑いを堪えつつ、図書館なので静かに何か訴えてきます。
値札です。しま〇らの値札だった気がします。
良心的お値段のチュニックの後ろ襟ぐりから値札がだらーんです。茶色のチュニックだったと記憶しております。とりあえず垂れ下がる値札をインしてやりすごした、と、まあ。
そんな大した出来事ではありません。よくあることです。
よくあることでしょうが、値札をつけたまま図書館に行ったのはこれが最初で最後です。
そして、裏返しの服ですが、これはわりと最近です。スーパーから帰宅して買ってきた総菜を食べていた時です。気づきました。あれ、服裏返しじゃね?
でもいいのです。トレーナーみたいなやつでしたから。縫い目を見せるデザインに見える気もしなくもないのです。そういうオシャレです。あります、デザインです。
サイズ表記なのが記してある後ろ襟ぐりのタグが見えていたんじゃないか、と心配なさるのなら心配いりませんとお答えします。髪を一つに結んでいましたから。首の後ろは一つ結びの髪の毛が隠していた、と信じています。
脇にある洗濯表示などのタグは? とのご質問には、歩いていればそんな些細な場所、腕で隠れるとお答えしましょう。そうであってくれたらいいと思います。だいたい人の服なんてそんなご注目あそばします? 裏返しだって気にすんなよ。
とまあ、よくある出来事でしかもどちらも洋服関連でしたが、この二つは黒歴史ではありません。わたしが黒歴史として語ろうと思った出来事は、洋服とはまったく関係のない話なのです。
——あれは二十代の頃。もしかしたら十代だった可能性も。
それくらい過去の出来事です。
ですが、その前にさらに過去の話をしましょう。
当時、小学生でした。
少女漫画雑誌の読者コーナーに、とある失敗談が載っていました。
『チョコムギを食べていた時、間違ってカメムシをつまんで食べてしまった』
うっそだあ、気づくじゃん。チョコムギとカメムシ、全然違うじゃん。
ウサギの糞ならわかります。
チョコムギに失礼ですが、ウサギを飼っていましたのでウサギの糞については詳しく、またカメムシが大量に発生する家に住んでいますので、カメムシの形状についても仔細承知しております。
チョコムギとカメムシは違います。食べた、なんてのは盛った話でしょう。
噛んだ、というような記述もあったと記憶しておりますが、「雑誌に載りたくて考えた嘘」と理解しました。何かと疑り深い小学生です。信じません。信じませんが、このエピソードが長く記憶に残っておりました。
そして月日は経過しまして、二十代だった頃の話に戻ります。
当時のわたしはガーデニングに凝っていました。自宅の庭でハーブも栽培しており、ハーブティーなんて洒落こもうとしていたのです。そしてハーブティーを急須で入れようとは思いません。耐熱ガラスの透明ポット。こちらを利用します。
こちらを利用します、というか、こちらに移行しておりました。急須は棚にいて、常に——それが緑茶であるがほうじ茶であろうが——透明ガラスポットでいただく、それは現在も同じなのですが、ともかくガラスポットです。
ハーブティーをいただくとき、まず虫の混入を意識します。自宅栽培です。フレッシュ。摘みたてですが、己の目にのみ頼り、害虫異物等のチェックを担うしかありません。じっくり見ます。何度も洗います。そしてお湯を入れて飲みますが、正直「湯」の味しかしません。
レモンタイムを主に入れて飲もうとしておりました。何ミントか忘れましたが(ミントって種類が多いんだぜ)ミントを入れる時もありました。カモミールの時もあったと思います。すべてを混ぜていた時も。
あらゆる組み合わせを試しましたが、煮出し時間が少なすぎたのか、そもそもの投入量が少なかったのか、自宅のフレッシュハーブティは「湯」の味でした。ちなみに市販のハーブティー(頂き物)は歯磨き粉でした。
なんとなく薄緑色になる、香りだけはまあする、でも「湯」の味しかしないお茶が自宅のフレッシュハーブティーです。
何度も試してそのうち飽きましたが、こちらにカメムシが、と思ったあなた。違います。何度もチェックし、虫の混入は厳格に避けておりましたから。
しかし市販の茶葉はどうでしょう。緑茶ならどうでしょう?
あれは緑茶を飲んでいた時です。もしかしたら玄米茶だったかもしれませんが、緑茶にしておきます。例の透明ポットです。おやつタイムだったかランチタイムだったか、ともかくも、わたしはひとりで食卓についておりました。ひとしきり食べ、飲み、満足した、その時です。
わたしの目に飛び込んできたもの。
それがカメムシでした。
In the pot
目を疑い、信じたくない思いでよくよく確かめます。
In the pot カメムシ。
それは一匹のカメムシがふやけた茶葉に混じっているようすでした。死んでいます。若干、ふやけていたようにも見えましたが、生気は感じられないお姿でした。
嘘だろ、と思いました。
わたしはよく水分を欲します。食事時もよく飲みます。あの耐熱ガラスポット二杯分は頂いております。
いつ、カメムシがINしたのでしょうか?
可能性1:元々茶葉に入っていた
この場合、市販の茶葉です。クレーマーに変身しそうです。
可能性2:ガラスポットに入っていたのに気づかずに茶葉を投入した
この場合、不注意です。クレーマーにはなりませんが、自分の認知機能を疑います。
可能性3:カメムシがテレポーテーションした
この場合、できることならすべての茶を飲み終え、ふと見たその瞬間にテレポートして頂きたい。であるならば、わたしはカメムシ混入茶を飲んでいないということです。
可能性3だと思います。
だって、市販の茶葉にカメムシが混入するでしょうか? 混入してそれがわたしの元へ回って来る確率はいか程でしょう?
ガラスポットにカメムシがいることに気づかずに茶葉を投入するものでしょうか。タグをつけたままで歩き、裏返した服を着て帰宅する奴はやる、と思うのなら反論できません。わたしも可能性を捨てきれないでいます。疑うべきはまず自分です。
しかし可能性3であることも、絶対にありえないのでしょうか?
世の中、奇妙なことはゴロゴロ起こります。わたしはUFOも未確認生物も大好きです。いつか魔法が使える気がするし、その気になったら空が飛べる、と思って愉快に生きることを良しとし、あ、大丈夫でス、変な薬は使ってませン。
テレポーテーションしたのです。カメムシは瞬間移動する昆虫なのです。
それでもわたしは気を付けるようになりました。
ガラスポットには何も入っていない、と確認してからお茶の準備をします。
大切なことです。あの衝撃はわたしを注意深い人間にしました。
もう一度書きます。ガラスポットはよく見てから茶葉を入れましょう。
春になりました。カメムシも元気です。また瞬間移動するかもしれません。皆さん、気を付けてお茶を飲んでください。
ちなみに一匹の混入ではカメムシの煮出し汁の味というのは出ておりませんでした。ですから、経験談としてカメムシの味を表現するすべは持ち合わせはおりませんので、飲んだ感想は語りません。飲んでないかもしれないし。
言えるのは、アレは普通のお茶でした、ということです。
【黒歴史】カメムシと茶葉と透明ポット 竹神チエ @chokorabonbon
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