第10話真実

白諸雲の人物画が上手いか下手かは別として、モデルの小百合ならば本物の絵がどちらか判るだろうとシチローは思っていたのだが……


「どっちもだから、判らないわね」

「どこがそっくりなんだか……」


小百合に聞こえない程の小さな声で、シチローが毒づいた。


「祖父は、母が気に入る絵が描けるまで何回でもその絵を描き直しさせられたそうですよ。」


楓がこの絵画が出来上がった経緯をチャリパイに話すと、四人は同様に楓の説明に頷いていた。


「白諸雲が人物画を描かなくなったのが分かる気がするよ……」


シチローは、皮肉めいた言葉を吐きながら額から取り出した絵を顔より高い位置に持ち上げてみたが、その時…それを見ていたてぃーだが、何かその絵に違和感のようなものを感じ、声を上げた。


「あれ?」

「どうしたのティダ?」

「今、一瞬ように見えたんだけど……」

「絵の顔が変わる訳ないじゃない。きっと気のせいよ」


そんなオカルトじみた現象が起きる訳がないと、子豚は一笑に伏していたが、そのやり取りを聞いていたシチローは、ふと…ある可能性に辿り着いた。


「まてよ…もしかして、そういう事もあるかもしれない!」


シチローは、もう一枚の絵を空いている方の手で持ち上げ、そのまま方向を変えて太陽の光の射す窓に向かってかざしてみた。


「やっぱり」

「え?何かわかったの?シチロー。」

「これを見てごらんよ」


シチローに言われて2枚の絵を覗き込んだ皆は、大口を開けて驚いた!


「ああああ~~~~っ!」


左側の何も変わらない絵に比べ、右の方は少女の顔が明らかに変わっていた。


「右の方、顔が『サッチー』になってるじゃないの!」


「おそらく、このサッチーの顔を描いた上から少女の顔を『重ね描き』したんだな…裏から光を当てると浮かび上がる様に。」

「どうしてこんな事を……」


小百合のその疑問には、優しい表情を浮かべててぃーだが答えた。


「きっと、白諸雲は小百合さんの事を心から愛していたのよ…だからあなたに何度描き直しをさせられても、を描きたかった。」


そして、その後をシチローが続けた。

「愛する娘の絵だからこそ、高額で欲しがる人間にも決して売る事は無かったんだな」


「お父さん……」


小百合は涙を滲ませた瞳を震わせながら、父の描いた【仔犬を抱いた少女】をじっと眺めていた。


いつまでも


いつまでも……



♢♢♢




「いやぁ、みんなご苦労様。おかげで無事依頼を解決できたよ」


白石母娘が、絵画の入ったケースを大事そうに抱え深々と頭を下げて事務所を出て行った後…シチロー達はいつものように打ち上げの宴会を始めていた。


「今回は珍しく感動的な終わり方だったわね」

「やっぱりコメディは『涙あり笑いあり』だよね」

「アタシ、一番良い所の台詞取っちゃったけどいいのかしらん」

「まぁ~とにかく、カンパ~イ!」


『カンパ~イ』



☆☆☆☆☆



40年前の白諸雲のアトリエ……




『クソ!小百合め…儂がせっかくソックリに描いてやったのに……

ええい!面倒だ!

この上から重ねて描いてしまえ!

……トホホ…こんな似てない人物画、とても他人には売れんよ……』



おしまい




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チャリパイEp5~仔犬を抱いた少女~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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