第9話白石小百合
『オッチャン、アホやないか~! こんな偽物の絵に200万も出してからに!』
森永探偵事務所のTVでは、素人のお宝にプロの鑑定士が値段を出すという番組で、鑑定士に偽物宣告された素人に司会者が毒付いている映像が流れていた。
「いったいどっちが本物なんだ……」
成金邸から持ち出した二つの絵画を目の前に並べて、腕組みをしながら難しい顔で両方を見比べるシチロー。
しかし、いくら見比べても、どっちが本物の【仔犬を抱いた少女】なのかはさっぱり判らなかった。もしも鑑定のプロが見ればその判断はつくのだろうが、盗品であるこの絵をその方面のプロに見せる事は、さすがにリスクが高すぎる。
さて、どうしたものかとシチローが考えを巡らせていると、てぃーだが、あるアイデアを思い付いた。
「シチロー、もしかして楓さんなら、本物がどっちか判るんじゃない?」
「成る程、元所有者の楓さんなら判別できるかもしれないな」
シチローは早速楓に連絡を取り、【仔犬を抱いた少女】を手に入れた事……そして手違いで二枚の絵画が事務所にあり、そのどちらが本物か判らなくなってしまった事を伝えた。
「……そういう訳でして、お手数ですが明日事務所までご足労願えますか?」
『分かりました。それならば、私よりも母の方が適任かもしれません。ですから、明日は母も一緒に連れて伺います』
楓の母親、
楓の母親と聞いて、シチローは事務所の天井を見上げ、その人物は一体どれほど美しい女性なのだろうかと思いを巡らせた。
「楓さんのお母さんかぁ~~この絵を見る限り、歳をとってもきっと吉永小百合のような綺麗な女性なんだろうな」
偶然にも楓の母親の名前もあの女優の吉永小百合と同じ『小百合』であり、実際白諸雲の絵画の中で微笑む『少女』も笑顔の素敵な美少女であった。
☆☆☆
そして翌日……
「こんにちは」
約束通り、楓は森永探偵事務所にやってきた。
「いやあ、わざわざお呼びだてしてすみませんでした。……ところで……」
きっと子豚もシチローと同じ事を思っていたのだろう。
事務所に入って来た楓に、真っ先に質問をぶつけた。
「楓ちゃん……隣の方はどなた? お手伝いさんか何かなの?」
かえでの隣には、なんと形容すれば良いのか……有名人に例えれば、楽天の野村克也元監督の奥様、沙知代夫人にソックリな年配の女性が立っていた……
「紹介します、母の『小百合』です」
「ええ~~~~っ! この『サッチー』が絵のモデル~?!」
「『サッチー』じゃなくて『小百合』です!」
憮然とした表情で、小百合が訂正する。
「しかし、40年でこんなに変わり果ててしまうのか!」
あの絵画の少女からは、今のこの小百合は想像が出来ない。果たしてこの人物は本当に同一人物なのかと疑いたくなるほどだ。
「あら、ちゃんと昔の面影はあるわよ、ほらっ」
そう言って小百合は自分の20代の頃の写真を出してシチローに見せた。
その写真を覗き見たてぃーだが、首を傾げて呟いた。
「白諸雲って人物画が下手なのかしら……」
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